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震災後出場した選抜高校野球の想い出について語る阪神タイガース・藤本敦士内野手=西宮市鳴尾浜のタイガーデン
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震災後出場した選抜高校野球の想い出について語る阪神タイガース・藤本敦士内野手=西宮市鳴尾浜のタイガーデン

震災後出場した選抜高校野球の想い出について語る阪神タイガース・藤本敦士内野手=西宮市鳴尾浜のタイガーデン

震災後出場した選抜高校野球の想い出について語る阪神タイガース・藤本敦士内野手=西宮市鳴尾浜のタイガーデン

1995・3・31

育英高でセンバツ出場 痛恨のサヨナラエラー

 阪神・淡路大震災直後の1995年センバツ。3年ぶり出場の育英は2回戦で、遊撃・藤本主将の悪送球で4-3のサヨナラ負けを喫した。
 初戦で創価(東京)を6-2で制し、意気揚々と臨んだ前橋工(群馬)戦。四回までに3点を先行されたが、五、七回に藤本の適時打で1点ずつ返し、九回表には大坪の左前打で同点に。だがその裏二死二塁までこぎつけながら、ショートゴロを捕った藤本の一塁への送球は高く浮く痛恨の失策。二塁走者がサヨナラのホームを踏んだ。
 大会は被災地住民への配慮から開催の是非が論議を呼び、開催決定は2月17日、出場校選考も同1日から21日までずれ込んだ。楽器の応援や県内への応援団バスの乗り入れは禁止。総入場者数は34万3千人と、前年から約14万人も減少した。

声援 心の救いに

 あれはランナー二塁ということで、ゴロをはじいて一気にホームにかえられたら嫌やから、とにかく捕りさえすれば大丈夫やと。それで捕って気が抜けた部分があった。大事に投げようと思ったところもある。普通のリズムでいってりゃ全然大丈夫だったけど、送球はいつもよりワンステップ多かった。負けるのが怖かったんでしょう。

 投げた瞬間に悪送球と分かった。「どうしよっかな」と。「野球やめた方がええんかな」とかね。学校に避難している人々にかなり応援してもらっていた。勇気づけられることもあった。合わせる顔がない。つらかった。でもテレビとかで、そんな人たちの「よく頑張った」という言葉を何度も聞いた。そのひと言で本当に救われましたね。

    ◆

 震災当時は実家で寝ていた。揺れ方も何も、なにがなんだかわかんなくて、住んでいたマンションが倒れるかと。収まるまで、ずっとベッドにしがみついていた。マンションの壁にはひびがけっこう入ってました。

 2月に入ったぐらいに学校に行ったときは(学校のある)長田はボロボロ。歩きとバスで3時間ぐらいかかった。家ではずっと身の回りの片付け。震災から1カ月ぐらいは、野球の練習なんてやれるような状況じゃない。その後もまとまっての練習なんて数えるほど。各自でやっていた。

    ◆

 開催見送りは全然考えてなかった。「今やることちゃうやろ」と言われても一生に1度出られるか出られないかの甲子園。複雑だった。主将で(マスコミに)いろいろ聞かれたら言葉を選んでいた。開催決定はロッカーで喜んだ。人前ではそういう姿見せたらいかんなということになってたから。

 でも僕らの年は個性が強い選手が多くて。1回戦の試合前、「目立ちたいけどあかんねやろな」って話していて「(ベンチ前で)円陣組んだらテレビ映るんちゃうん」って組んだら、ちゃっかり映ってました。緊張をほぐすのもあったけど実は僕らまとまりはない。固まるのは初めてだった。

 グラウンドでは野球に集中。けど勝ってほっとしてグラウンドから出たら「これで被災者のためになったかな」とか考えた。「全力プレーを見せたら何か伝わるかな」とも思ってやっていた。

    ◆

 僕ら兵庫3校(育英、神港学園、報徳)は1回戦を突破。ちょっとは街に元気が出たかなと。今思えば開催は成功だったんじゃないかなと思う。

 震災で野球したくてもできない苦しい状態に遭遇した。だからあのとき野球ができて心の底から喜んだ。今野球ができることを大切にしたい。明日はどうなるか分からない。あのとき本当に思い知らされましたから。

(聞き手・伊丹 昭史、写真・坂部 計介)

10年たつけど、精神的にまだ参っている人もいると聞く。一番被害がひどかった長田に学校があったから、愛着心がある。そういう人たちにまだ夢を与えられるチャンスがまだ僕にはある。なんとか人々を勇気づけられる選手になりたい。

略歴 ふじもと・あつし 俊足巧打の内野手。明石・望海中から育英高に進み、3年春にセンバツに出場。亜大時代に腰を痛めたが、懸命のリハビリで復活。専門学校、社会人のデュプロを経て、2000年にドラフト7位で阪神に入団した。遊撃に定着した03年に自身初の打率3割でリーグ優勝に貢献。昨夏のアテネ五輪にも出場し銅メダル。27歳。明石市出身。

2005/1/14
 

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