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社説 大震災12年 教訓を形に 「復興」の枠組みをどう整えるか
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 阪神・淡路大震災からきょうで丸十二年になる。高齢化する都市部を襲った未曾有の災害だっただけに、私たちはこの間、手探りで復旧・復興の道を歩んできた。見落とし、後回しにしてきた課題も多い。被災者一人一人にとって「復興」とは何か。教訓を生かす法制度や仕組みはできたのか。鎮魂の祈りとともに、問い続けたい。

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 被災地の人口や有効求人倍率、兵庫県全体の実質総生産など、指標としてきたものは、なんとか震災前の水準を上回った。土地区画整理や市街地再開発など大きな復興事業も、ほぼ完了に近づいている。

 それでも、「復興」の確かな手応えが感じられないのはなぜだろう。

 不況の影響が大きいと言われてきた。個人の事情もあるだろう。加えて、復興計画など重要な事柄を決める段階で、被災者自らが参加できる仕組みがなかったことが、尾を引いているのではないか。

 地震からわずか二カ月後の都市計画決定に、家を失い町を離れていた住民の声は反映されなかった。半年足らずで策定された兵庫県の復興計画(フェニックス計画)も、学識者の知恵を集めたとはいえ、多くの被災者にとってみれば「いつの間にか決まっていた」という印象が強い。

 「自ら決めた」「決める場面に参加した」という意識を持てるかどうかは、その後の頑張りや達成感を大きく左右する。

 被災者の参加や合意のプロセスを大事にする。高齢者や障害者、女性、外国人らの声を丹念に拾う。少なくとも、初期の不十分な情報ですべてを決めてしまわず、途中で見直しや変更を行う。

 長い復興の道のりを考えれば、こうした柔軟な姿勢が欠かせない。災害後の混乱で手が回らない恐れがあるなら、当事者の声が確実に届く仕組みを、普段から整えておく必要がある。

無理に合わせた弊害

 大急ぎで復興計画を作ったのは、国の復興予算の概算要求に間に合わせる必要があったから、といわれている。当時の法制度で、しかも平常時の官庁のスケジュールに合わせてこの大災害に対応するしかなかったことに、そもそも無理があったのではないか。いま、あらためてそう思う。

 例えば、阪神・淡路大震災の被害額は「約十兆円」とされるが、これは被災一カ月後に、倒壊した建物など直接の被害を見積もったものである。その後に分かった損害や、人口が戻らないことによる経済的なダメージなどの間接被害は入っていない。

 にもかかわらず、この数字を基に復旧や復興の支援策が作られた。ここに、公共施設や道路の整備が進む一方、商業やまちづくりといったソフト面の復興、ひいては暮らしの再建が遅れた一つの要因がある。

 大きな災害ほど、全体像の把握には時間がかかる。間接被害も膨らむ。数カ月のうちに被害を特定し、復旧・復興の計画を整えなければ予算がつかない、というのはどう考えても実情にそぐわない。

 行政の縦割りや単年度主義の弊害を残したまま、既存の法制度を弾力的に運用したり、特別措置法をいくつか作ったりするだけでは不十分だ。被災地の現状を踏まえて、総合的に対応できる「復興基本法」のような大きな枠組みが要るだろう。

 ところが、阪神・淡路大震災から十二年がたつのに、この復興基本法を作ろうという機運が盛り上がらない。日本弁護士会のワーキングチームや関西学院大学の災害復興制度研究所など、わずかな専門機関が検討を重ねているだけである。

 みんなの関心は、災害をどう予測するかや、直後の救命・救援活動に集まる。やむを得ないとはいえ、その後の長くて険しい復興の段階まで十分に目が届かない。

 復興は一律ではない。ときには対立もある。被災者それぞれが抱えこんだ困難が加わって、一筋縄ではいかない。そんな復興段階で、どんな問題に直面するかを整理し問題を提起するのは、被災地でしかできない取り組みだろう。

 災害列島と呼ばれるこの国で、次の被災地へ問題を持ち越さないよう、今一度、私たちの復興の道のりを振り返りたい。被災地責任と言ってもいいだろう。

支援法の見直し機に

 この十二年間で、日本の社会構造はかなり変わった。

 少子高齢化や過疎化が進んだため、大震災当時より深刻な問題が起きる恐れがある。市町合併や行財政改革で、地域の消防や医療の体制は縮小された。非正規雇用の人は、生活再建の道筋がさらに険しいかもしれない。

 今世紀前半にも起きる可能性が高い東南海・南海地震のような都道府県をまたぐ広域災害が起きた場合、どこが中心になって復興の青写真をどう描くのかさえ、まだ検討されていない状態だ。

 こうした現状を放置しておいてはならない。復興を考えることは、どんな社会を目指すのかを考えることにつながる。

 個人補償に道を開いた「被災者生活再建支援法」の二度目の見直しが、来年、予定されている。住宅本体の再建に助成がないなど不十分な点も多い。この拡充を足がかりに、長い道のりが待つ「復興」に照準を合わせた法制度の議論を始めたい。

2007/1/17
 

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