阪神・淡路大震災で亡くなった一人一人の被災状況などを記録に残そうと、神戸大学が中心になって進める「犠牲者聞き語り調査」が今年で十年目を迎える。これまでに三百五十一人の遺族から聞き取りを終えたが、ここ数年、調査数は激減。その背景には、震災から十年以上を経て遺族捜しが難しくなっていることや、担当する学生の入れ替わりなどがある。同大学は今年、遺族らに活動を広く知らせるパンフレットを新たに作り、協力呼び掛けに力を入れる。(磯辺康子)
調査は一九九八年に始まった。「六千四百三十四人」という数字ではなく、一人一人の死を克明に記録し、震災の実像を後世に伝えていくのが目的。調査は、大学院生と学生が担当し、財団法人・ひょうご震災記念21世紀研究機構(神戸市中央区)が記録の保存、資金面などで協力する。
聞き取りの内容は詳細だ。震災時に住んでいた住宅の間取り、被災状況、生前の暮らし、遺族の思いなどを尋ねる。犠牲者の写真、自宅周辺の地域の被災地図なども含む記録は一人分ずつ、別々に製本して保存する。出来上がった本は遺族にも届けている。
原則として三十年間は非公開だが、遺族の了解を得られた場合は、「人と防災未来センター」(神戸市中央区脇浜海岸通一)の資料室にあるパソコンで公開している。その数は現在、百十五人分。同研究機構が集めている「犠牲者の写真と遺族の思い」の二十九人分と併せ、誰でも閲覧できる。
「聞き語り調査」は、最初の二年間で二百人以上の記録を集めたが、四年目以降は、数人から十数人にとどまっている。転居を重ねている遺族も多く、個人からの紹介などで協力者を捜す方法は限界があるという。もちろん、「話したくない」「思い出したくない」という遺族も多い。
調査に参加する学生側の課題もある。震災当時はまだ小学生という世代で、震災を体験していない人も多い。調査が始まった当初と違い、活動の意義を実感しにくい状況になってきた。
一方で、調査は、震災体験のない学生が遺族の生の声を聞く貴重な機会ともなる。学生が聞き取りをするのは、若い世代が震災について学び、経験を受け継いでいくためでもある。
調査を担当する神戸大工学部の塩崎賢明教授は「遺族は自分の五感で感じたことを語り、学生も五感で受け止める。遺族に直接、話を聞いた学生は必ず、文字や映像では分からない『体験者のすごみ』を感じ取る」と強調する。
協力してくれる遺族を捜すため、今年は活動紹介のパンフレット発行を計画しており、被災地の商店などに住民への配布を呼び掛ける予定だ。
塩崎教授は「今のところ、調査に期限を設けるつもりはない。年に数人でも、着実に聞き取りを積み重ねていきたい」としている。
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▼口述記録プロジェクト
教訓、本格的に分析へ 3調査の蓄積進む
神戸大とともに「犠牲者聞き語り調査」を進める「ひょうご震災記念21世紀研究機構」は、この調査を「オーラルヒストリー(歴史研究のための口述記録)・プロジェクト」の一環と位置づけている。
プロジェクトは三本柱で、ほかに▽行政関係者に震災直後の対応を聞く調査▽ボランティアや政治家など幅広い関係者に復興期も含めた対応を聞く調査-がある。この二つの調査については、インタビューの映像も保存している。
プロジェクトは今年で十年目を迎え、三つの調査から引き出される教訓の分析を本格的に始める計画だ。
同機構の村上友章・主任研究員は「これまでは三つの調査を個別に進めてきたが、今後は各チームの蓄積を出し合い、連携して研究を進めていきたい」としている。
2007/2/25