暗闇と冷気が、静寂を包む。一月十七日午前五時四十六分。阪神・淡路大震災から十三年がめぐる。あの日、街は色を失い、音が消えた。一生忘れられない光景。ずっと消えない悔い。だから私たちは、明かりをともす。鐘を鳴らす。若い世代に語り継ぐ。夜明け前から寒風が吹き、小雪がちらついた。あの朝に似た寒さは「忘れないで」という亡き人からのメッセージだろうか。体の芯(しん)で受け止めて祈る。陽光が差し始めた空に、新たな一年を生きていくと誓う。
孫の成長報告 神戸市中央区
「母さん、こんなに大きくなったよ」
神戸市中央区の東遊園地。ろうそくの火を前に、芦屋市西山町の会社員平野卓雄さん(38)は、母喜美子さん=当時(57)=に、息子たちの成長を報告した。
震災後、結婚して子ども二人をもうけた。そばにいた長男(7つ)は、亡き祖母へ手紙を書いた。「孫の顔を見ることはなかったけど、思いは母に届いているでしょう」
心に生き続け 神戸市東灘区
黙とう。大きなクスノキが、音を立てて風に揺れた。地域で百七人が犠牲になった神戸市東灘区の森公園。着物姿の加賀翠(みどり)さん(52)は、慰霊碑前で静かに目を閉じた。
娘の桜子さん=当時(6つ)=を失った。来年は成人式を迎えるはずだった。「(娘は)心の中に生き続けています」。お気に入りのぬいぐるみや服は、今も大切に残している。
木の下に集う 神戸市須磨区
大きなメタセコイアの根元に寄り添うように人々は集い、祈った。
四十七人が犠牲になった神戸市須磨区千歳地区の千歳公園。周囲には新しい建物が並ぶが、大木は十三年前のままだ。
会社員安田雄一さん(25)は当時、この場所にあった旧千歳小の六年生。体育館に避難した。「ここは、亡くなった人の分まで生きることを確認する場所」と足を運んだ。
亡き母しのび 西宮市
犠牲者千八十五人の名前が刻まれた西宮市奥畑の西宮震災記念碑公園。松山幸浩さん(35)=同市甲東園二=は、三年前に結婚した妻陽子さん(36)と一緒に亡き母を思った。木造の一戸建てが全壊し、母は下敷きになった。当時自営業だった幸浩さんの将来を心配しながら逝った母。「今は二人で頑張ってます」。夫婦でそっと語りかけた。
「千の風」響く 淡路市
淡路市の北淡震災記念公園では「千の風になって」の歌声が響いた。娘婿と孫二人を一度に失った同市富島の会社員伝法(でんぽう)良一さん(65)、くに子さん(61)夫妻。「天国に届け」との思いを込めた。
「冬になると、気分が重くなる」。悲しみは癒えず、丸十三年を迎えた今年も追悼式で祈りをささげた。「いつまでも私たちを守ってね」
2008/1/17