2009年8月、新型インフルエンザの影響で、神戸市の中心街は閑散としていた。しかし、三宮のそごう神戸店一階の特設会場は、連日、若い女性が押し寄せ熱気があふれていた。
神戸市長田区の中小靴メーカー13社が約400種類を直接販売した「神戸シューズコレクション」。2週間の会期で売れたのは計1600点、当初目標の2倍以上だった。「不況もあって採算を危ぶむ声もあったが、結果は大成功」と、担当者の同店婦人雑貨部企画担当課長川西康之は胸を張った。
川西が神戸に来たのは、同店の開業75周年にあたる2008年9月。阪神・淡路大震災で半壊被害を受けた同店では、地域とのつながりを見つめ直す方針が打ち出されており、川西はケミカルシューズ業界との連携企画を提案。通常、百貨店は卸業者や大手メーカーとの取引が中心だが、地元中小メーカーから直接買い入れることで地域を元気づけたかった。
取引のため初めて訪ねた長田の靴工場は、驚くことばかりだった。会社ごとに製品の個性が際立ち、斬新で魅力的なデザインがあふれていた。卸業者から届く靴は、万人受けするものになりがちと気付かされた。
ただ、前例のない中小メーカーとの直接取引に、不安はあった。きちんと取引書類をそろえてくれるのか、売れ筋商品の品切れを防げるか…。
結果は、そんな心配を見事に覆した。神戸市の外郭団体などの支援もあって、取引口座の開設など百貨店との複雑な取引手続きは円滑に進んだ。各社とも専門知識が豊富な靴のデザイナーを売り場に立たせ、接客は充実していた。品切れ対策では、各メーカーとも毎日在庫数を確認し、夜の間に必要分を製造するという離れ業でしのいだ。
川西は「地場産業の底力に驚かされた。日に日にメーカー側の人たちの表情が明るくなっていくのがわかった」という。
神戸店での成功を受け、千葉店、西武池袋本店など関東の系列店でも同じイベントを開催。いずれも盛況で、ケミカルシューズ業界の実力を広めた。
神戸店では今月19日から25日まで、食料品でも神戸の地場商品を集めたイベントを開催。3月には靴フェアをまた開く。「競争激化で厳しい状況にある百貨店業界にとっても、地域との協力は新しい可能性を広げてくれる」。川西の変革の試みは始まったばかりだ。(敬称略、阿部江利)
=おわり=
<変わる靴の流通> 神戸・長田で生産された靴は、靴メーカーから卸売業者などを経由し、小売店・量販店で消費者に届くのが一般的。卸売業者が独自ブランドとして、メーカーに製造を委託する場合も多い。しかし、卸売業者の注文に応じて生産量が左右されるなど、メーカーは弱い立場にあるともいわれる。長田の中小メーカーでは自社ブランドを確立し、インターネットなどで消費者に直販する動きも目立ち始めている。
2010/1/17