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社説 震災16年 経験と教訓 被災地からの発信続けたい
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 阪神・淡路大震災から16年が過ぎた。6434人の命が奪われ、都市の問題が噴き出した災害だった。犠牲はあまりに大きかったが、学んだことも多い。経験と教訓を伝えていく必要がある。

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 昨年10月、南米チリの鉱山落盤事故で地下に閉じこめられた33人が無事生還し、「奇跡の救出」と呼ばれた。

 約700メートルの地下から全員を救出したことは快挙に違いない。しかし、33人の生存が確認できたのは、事故から17日後のことだった。もう少し発見が遅れていたら危うい状況だった。

 大災害や大事故では生存者の捜索、救助は困難な作業になる。人が入れない場所も多いからだ。しかし、救命は時を争う。そんな現場で活躍が期待される救助ロボットの開発が進んでいる。

 国内の研究拠点が、震災で激甚被災地となった神戸市長田区にある。日本で救助ロボット研究が本格化したのも、実は震災がきっかけだった。

青年の遺志を継ぐ

 NPO法人「国際レスキューシステム研究機構」は、全国の研究者の知恵を集め、人を救い出すロボットなどの研究を続ける。理事の高森年さんは「震災から16年がたち、ようやく世に出せるロボットができた」と話す。

 そのロボット「UMRS2009」は、災害後のビルや地下街などに進入し、人がいないかどうかを調べる。長さ59センチ、幅50センチ、高さ25センチと小型だが、傾斜45度の階段を上り、でこぼこ道を走ることができる。照明付きのカメラ、二酸化炭素濃度などを調べるセンサーも備える。昨年9月、神戸市消防局に貸し出され、実用性を検証している。

 震災では、がれきなどに阻まれ、救出は困難を極めた。「現場でロボットの技術を生かせないか」。研究者らは救助活動に携わった住民、消防隊員、自衛隊員らから当時の状況を詳しく聞き、ロボット開発を進めてきた。

 さらに、震災で無念の死を遂げた一人の青年の遺志を引き継ごうとの思いが研究に拍車をかけた。

 当時23歳だった神戸大大学院生、競基弘(きそい もとひろ)さんは「ドラえもん」のように人間の友達になれるロボットづくりを夢見ていた。しかし、神戸市灘区のアパートは倒壊し、就寝中に亡くなった。

 その死に直面した指導教官らは「人を災害から救うロボット」の実現に情熱を傾けた。

 研究機構は、競さんの名前を冠した「競基弘賞」を6年前に設け、レスキューシステム開発に貢献した若手研究者を毎年、表彰している。

 競さんが理想とした「人を癒やすロボット」はまだまだ遠い夢だが、教訓を生かそうとの思いは、若い世代にも引き継がれつつある。

社会の弱点が噴出

 震災から16年。今年、最大の復興事業だった土地区画整理事業も完了する。被災地の傷痕は見えにくくなったが、震災の影響はなお残る。

 復興公営住宅の高齢化率は5割近くに達し、独居死も続いている。人間関係の希薄化は「無縁社会」と呼ばれる。コミュニティーまで破壊され、コンクリートの住宅で孤立した暮らしを余儀なくされた高齢者たちの姿は、それを先取りしていたともいえる。

 自治体が最長20年の契約で民間などから借り上げた復興住宅は、返還期限が迫る。現在の住まいにようやく落ち着いた高齢者が再び転居を求められている。

 兵庫県こころのケアセンターの調査では、震災で家族を亡くした遺族の約半数にPTSD(心的外傷後ストレス障害)症状などの心理的影響が今も残っていることが分かった。

 被災世帯に国と自治体が貸し付けた災害援護資金は、約200億円の返済が滞っており、国は償還期限を3年間、再延長することを決めた。生活苦などが滞納の理由とみられる。

 都市を襲った震災の被害は大きく、社会の弱点をあぶり出した。今も残る課題がそれを物語る。

 だが、その中で教訓を生かそうとの努力も地道に続けられてきた。

 人を救うロボットの研究はその一例である。地域の防災力の向上、災害救急医療体制の充実など、まだまだ十分ではないにしても、命を守るための取り組みは進みつつある。

 住民主体のまちづくり、「ボランティア元年」と呼ばれた市民参加の拡大も震災後に前進した事例だ。被災者生活再建支援法が成立し、踏み込んだ公的支援の仕組みができたことも画期的といえる。

 苦しい体験の中から生まれた新たな芽を大きく育てたい。

 昨年、2千人以上が孤立した鹿児島県奄美地方の豪雨災害が起きた。海外では、ハイチやチリ、中国で大地震、パキスタンで洪水など、巨大災害が相次いだ。

 東南海・南海地震などの危険性は高まっている。大災害に備え、阪神・淡路の経験を伝える必要がある。

 あらためてあの日を、この16年の歩みを思い浮かべ、考えたい。何をどう伝え、生かしていくのか。被災地からの発信を続けなければならない。

2011/1/17
 

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