日本列島の上に冬将軍がどっかり腰を下ろしている。凍るような空気が肌を刺す。かじかむ寒さの中で阪神・淡路大震災の被災地はきょう、丸16年の朝を迎えた◆思えば、あの日も冷たい北風が吹きつけていた。大地が激しく揺さぶられ、まちが崩壊し、すみかを失った人たちは着の身着のままでうち震えながら、夜明けを迎えた。この時期、桜も身を縮めるように寒さに耐える。芦屋市の津知町と川西町の間を走る「川西さくら通り」の桜並木もそう映る◆その桜の一本に張り紙が掲げられたのは、地震発生から間もなくのことだ。「女性一人家屋の下にいます」。手書きの文字が訴えかけた。木の背後には倒壊した住宅の瓦屋根。1階で寝ていたおばあさんが自衛隊に救出されたのは、しばらくたってからだという◆張り紙を書いたのは、近くに住む杉本茂さん(86)だった。2階にいた娘さんは何とか助け出したが、太い柱に歯が立たない。仕方なく、救援を求める目印として張り付けたと話す◆その張り紙を本紙写真部員が撮影していた。それを基に一昨年、京都の高校生たちがおばあさんを探し歩いた。おばあさんは救出後に亡くなったが、遺族の感謝の言葉が最近、杉本さんに届いた◆桜は今も同じ場所に立つ。つぼみがほころぶころ、人々はいろんな思いでその木を見上げることだろう。被災地の桜は17年目の春に向け、寒気の中でまだ堅いつぼみを抱いている。
2011/1/17