連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

  • 印刷
神戸市が導入した断層用鋼管。膨らんだ部分が「関節」の役割を果たし断層がずれても破損を防ぐ=神戸市兵庫区楠谷町
拡大

神戸市が導入した断層用鋼管。膨らんだ部分が「関節」の役割を果たし断層がずれても破損を防ぐ=神戸市兵庫区楠谷町

神戸市が導入した断層用鋼管。膨らんだ部分が「関節」の役割を果たし断層がずれても破損を防ぐ=神戸市兵庫区楠谷町

神戸市が導入した断層用鋼管。膨らんだ部分が「関節」の役割を果たし断層がずれても破損を防ぐ=神戸市兵庫区楠谷町

 ブランコの脇で、子どもらが駆け回る。兵庫県庁の北約400メートルにある諏訪山児童公園(神戸市中央区)。ほほえましい風景を眺めながら神戸市水道局の職員が足元を指した。「この地中深くに私たちの思いが埋まっています」

 阪神・淡路大震災の発生した24年前の1月17日。震度7の揺れが収まると、市内一円の49万5300戸が断水した。地下に網の目のように延びる配水用水道管は、1700カ所以上で継ぎ手が外れたり折れたりして漏水し、全面復旧まで2カ月半を要した。「水源の4分の3を琵琶湖・淀川に頼る神戸の水道システムの弱点が露呈した」と職員は悔しさを忘れない。

 震災発生から5カ月後、市は大容量送水管の建設計画を打ち出す。兵庫県芦屋市との境から兵庫区の浄水場までの13キロを直径2・4メートルの大型管で結び、大量の水を送り込む“大動脈”だ。もし配水用水道管があの日のように壊れても、内部の貯水で全市民153万人の飲み水を12日間まかなえる。

 しかし、大きな課題があった。ルート上に幅16メートルの会下山断層が横たわる。大容量送水管をいかに通せばよいのか。大地震で断層がずれて管が破損すれば、たちまち水が流れだし、地中に吸い込まれていく。

     ◇

 2010年。1996年に始まった大容量送水管の敷設事業は芦屋市境から西へ着々と進み、会下山断層の横断方法を決定する時期が迫っていた。伸縮可能な蛇腹状の送水管を採用する案が有力になっていたが、蛇腹の波形部分の管が薄く、破断する懸念がぬぐえなかった。

 「鋼管の厚さを確保するやり方はないか」

 送水管製造を担うJFEエンジニアリング(東京)に市の担当者熊木芳宏さん(57)が相談すると、管の一部を膨らませる研究段階の手法が示された。「膨らんだ部分が『関節』となって屈曲し、管全体を守る」と考案した同社の技師・長谷川延広さん(46)は解説する。

 「鋼管をろくろのように回転させながら太さを調整する加工方法なので厚さを維持できる。鉄の粘り強さで断層のずれにも対応できる」。求め続けた条件を満たす技術。水道局は、導入実績ゼロにもかかわらず採用を決断した。

 前代未聞のプロジェクトが始まると、水道局と同社はコンピューター解析や実験に注力した。会下山断層の正確な位置をボーリング調査などで割り出し、諏訪山児童公園の地下約40メートルで鋼管を横断させることを決定。断層のずれを想定し、「関節」部分を5メートル間隔で4カ所設けた。

 万全を尽くした大容量送水管工事は、16年に完了。不可能とされてきた水道管の断層対策の国内第1号となり、製品は「断層用鋼管」と名付けられた。

     ◇

 18年12月、神戸から約400キロ離れた東京都立川市。2例目の断層用鋼管が、立川断層を横断した。命をつなぐ水を送り続けるために。(長尾亮太)

2019/1/18
 

天気(9月8日)

  • 33℃
  • ---℃
  • 40%

  • 33℃
  • ---℃
  • 50%

  • 34℃
  • ---℃
  • 20%

  • 34℃
  • ---℃
  • 40%

お知らせ