うなりを上げて高速回転する刃が、くぎが打ち込まれた木材も、車のドアも難なく切断していく。災害現場でがれき下の命を救うために活躍するチェーンソー用の超硬チェーン。各地の陸上自衛隊駐屯地に配備されている製品の供給元は、兵庫県三木市の末廣精工。阪神・淡路大震災を教訓に開発したという。
金物のまちに本社を構える同社は、1923(大正12)年創業の老舗。従業員は約50人。チェーンソー用のチェーンやのこぎりなどを開発・製造する。
阪神・淡路では工場の建屋にひびが入るなどしたが、生産に支障は生じなかった。当時専務だった津村敏弘社長(62)はテレビで見た神戸市内の被害が気になり、発生から数日後に車を走らせた。
チェーンソーを使って倒壊家屋を解体する現場を目にしたとき、「切れていない」と直感した。がれきはくぎや金具がむき出し。既存のチェーンソーは木材用しかなく、くぎなどに当たると刃が欠けたり摩耗したりしてすぐに切れなくなってしまうのだ。一刻を争う救助活動には対応できない。倒壊した家屋が積み重なる被災地の姿が、頑丈な災害用チェーンの開発へと津村さんを駆り立てた。
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手がかりがあった。88年ごろから手掛ける同社の看板商品、街路樹の根切り用チェーンだ。石が埋まる土中で使うため、30個以上ある鋼製の刃に「超硬チップ」と呼ばれる高強度の自社製金属部品を溶接している。「超硬チップを応用すれば、がれきの硬さにも耐えられる」と読んだ。
難点は、くぎなどの金属を切断する際に刃にかかる衝撃が増し、チップが外れる恐れがあること。切断時の抵抗を抑えるため刃を小さくし、切れ味は守る。刃の前に備わり、切り込む深さを調整する鋭角のパーツ「デプス」と刃のバランスに腐心しながら、金型を0・1ミリ単位で調整して試作を繰り返した。
鉄も切れる黄金色の超硬チェーンが、半年後に誕生した。津村さんは「レスキューチェーン」と名付け、商標登録した。
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販路を確保するため、取引のあるチェーンソーメーカーに協力を求めると「これはいい」と快諾を得た。96年1月、メーカーが従来品を納めていた東京消防庁へ一緒に売り込んだ。阪神・淡路から1年後で関心は高く、2カ月後に採用が決まった。同年、横浜市消防局への納品も成功した。
次第に評判が広がり、陸上自衛隊が災害派遣時に使うチェーンソーの入札で、レスキューチェーンが付いていることを条件にした。東日本大震災翌年の2012年には需要が一気に高まり、約6千本を出荷した。西日本豪雨や北海道地震があった昨年は、解体業者などからも注文が相次いだ。
「チェーンの強度が人命を左右することもある。もっと耐久性のある製品を作りたい」と津村さん。飽くなき探究心が、災害救助の可能性を切り開いた。(綱嶋葉名)
2019/1/19