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自作「九つの詩片」を手にする古巻和芳さん。現在も、神戸市役所展望ロビーで鑑賞できる=神戸市中央区(撮影・吉田敦史) 新潟県の山里を舞台に、北川フラムさんが主導した「大地の芸術祭」の作品の一つ、ボルタンスキーの「夏の旅」(2003年、撮影・古巻和芳) 神戸新聞NEXT
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自作「九つの詩片」を手にする古巻和芳さん。現在も、神戸市役所展望ロビーで鑑賞できる=神戸市中央区(撮影・吉田敦史)

新潟県の山里を舞台に、北川フラムさんが主導した「大地の芸術祭」の作品の一つ、ボルタンスキーの「夏の旅」(2003年、撮影・古巻和芳)

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新潟県の山里を舞台に、北川フラムさんが主導した「大地の芸術祭」の作品の一つ、ボルタンスキーの「夏の旅」(2003年、撮影・古巻和芳)

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■美術家 古巻和芳さん

 神戸港を巡る遊覧船上で、乗客らは透明なアクリル板を手にかざしながら、六甲の山並みやビル群、造船所を眺めていた。

 〈炎炎炎炎炎炎炎。/また炎さらに炎。〉

 板には、神戸市在住の詩人、安水稔和さんの「神戸 五十年目の戦争」から引用した詩の一部が記されている。フレーム越しの風景に、乗客は何を見ただろうか。神戸空襲の戦火、阪神・淡路大震災の情景…燃え上がる幻影を、「今」の街に重ね合わせたのではないだろうか。

 2017年秋、神戸港一帯を会場にした「港都KOBE芸術祭」に出品した美術家古巻和芳さん=宝塚市=の「九つの詩片」。安水さんをはじめ、地元の詩人たちが戦前から現代につづった九つの詩をモチーフにした現代アートだ。

 「これらの詩句は土地に埋まった言葉。ラテン語のゲニウス・ロキ、つまり歴史、文化の蓄積によって生まれる土地固有の価値(地霊)の一つとして捉えた」と古巻さん。「現在の風景に過去の歴史を添えれば見え方が変わってくる」

    ◆    ◆

 1995年1月17日、宝塚市の自宅で激しい揺れに見舞われ、妻と2人、タンスの下敷きになった。幸い命拾いし、家の被害も小さかった。直後は県職員として救援物資の仕分けなどに追われ、その後も長い間、復興支援に携わった。私生活では油彩画を描き、個展も開いたが「こんなことをしていてよいのかと、震災で描く理由が揺らぎもした」

 2003年、休暇で新潟県の里山が舞台の「大地の芸術祭 越後妻有(つまり)アートトリエンナーレ」を訪ねた。廃校全体を用いたフランスの現代美術の巨匠クリスチャン・ボルタンスキーの「夏の旅」など、土地の風土や歴史を生かした作品を幾つも目にし、心動かされた。この手法を推し進めたのが芸術祭の総合ディレクター北川フラムさんだった。

 3年後、自らも公募で参加し、“フラム学校”の生徒に。養蚕の里で住民らと交流しつつ、古民家を活用し、カイコを題材にしたインスタレーション(空間芸術)を作り上げた。反響は上々で、「土地から匂いたつものを味方にすれば強い作品ができる。地元の人が誇りを持て、外の人も共感できる」と確信を得た。フラムさんの手法や発想に共鳴し、「土地固有の記憶・物語」へのこだわりがその後の創作の支柱となった。

 翌07年の「神戸ビエンナーレ」で初めて「震災」のテーマと向き合った。出品作「掃き清められた余白から」は、がれきと震災前の日常とを対比した鎮魂のインスタレーション。自らのアイデアを基に仲間と共同制作した。震災から12年が経過し街は復興しつつあった。「でもまだ心に傷を負った人はいる、心象風景の中のがれきはいつまでも消えない」との思いを込めたという。

 震災後、数多く開かれた被災者を励ます音楽会や演劇に比べ、美術には即効性がないとも言われる。「けれど5年、10年がたち、あれは何だったのか、今どこにいるのか、どこへ向かうのかを考えさせてくれるのが美術ではないか」

    ◆    ◆

 昨年秋の個展でも、同様の考え方で神戸を見つめ直した。阪神大水害、神戸大空襲、震災を扱った安水さんの詩「三宮」「須磨」「長田」を記した3枚のアクリル板と神戸の地図を重ね合わせ展示した。神戸はそんな苦難の中、立ち直り歩んできた。言葉が歴史が地層のように重なり響き合う。「昔は作品で自己主張することが多かった。今は自身も見つめながら、社会性も意識するようになった」

 あの日から25年。その間も災害が多発し、震災の2文字から、「阪神・淡路」より「東日本」を想起する人も多い。「だが、記憶は土地に眠っている。これからもそれを掘り起こしていきたい」。それがこの世界を深く、多面的に捉えることにつながると考えるから。(堀井正純)

【こまき・かずふさ】1967年、宝塚市生まれ。神戸大経営学部卒。89年から兵庫県職員として働き、現在は県立美術館の広報担当。大学時代は美術部に所属し、卒業後も創作活動を続ける。2007年の「神戸ビエンナーレ」では、震災の記憶を扱った作品で実行委員会特別賞を受賞。

2020/1/10
 

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