2018年1月、神戸港は開港150年を迎える。阪神・淡路大震災の復旧・復興に伴う財政難と産業構造の変化による経済低迷に疲弊した神戸は、開港とともに近代史に突如、名を表し、国際都市として大成長を遂げたかつての輝きを取り戻すための模索を重ねる。未踏の人口減少社会に現市政が掲げる「未来創造都市」の着地点はあるのか。神戸市長選(10月8日告示、22日投開票)を前に、このまちの針路を考える。
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神戸市役所29階の神戸市会本会議場。5日の代表質疑で共産党市議が矛先を向けたのが、三宮再整備だった。市長選の争点化も意識し、「需要予測や全体の計画がない」「商業床が多すぎる」などと詰め寄る市議に、市長久元喜造(63)は「心配は無用」などと答弁する副市長のかたわらで不満げな表情を見せた。
震災後の財政難が響き、都市基盤の立て直しで他都市に遅れを取ってきた神戸。起死回生の試みとして、久元が手を付けた三宮の再整備は、政府の成長戦略に足並みを合わせて神戸の浮揚を図る最重要課題だ。
阪急やJRの駅ビル建て替え計画を機に、駅南の交差点を歩行者空間に大改造し、駅東側に高層のバスターミナルビルを建設する。同時に市役所2号館を文化・交流機能を持つ複合高層ビルに建て替え、ウオーターフロントに商業施設やオフィス、ヨットハーバーも整備する。
巨大ビルの建設によって大量供給される商業床、オフィス、ホテル…。規模の拡大が人や企業を呼び込み、街は旅行者や家族連れでにぎわう-。そんなシナリオで描かれた30年後の三宮の未来予想図。市の担当者は「神戸は大都市としての求心力を維持できる」と確信する。
だが、本当に人は来るのか。国立社会保障・人口問題研究所(東京)の推計では、神戸市の人口は30年後を待たず、23年後の2040年には20万人減(13%減)の135万人となる。15~64歳の生産人口はその半分程度にすぎず、4割近くは65歳以上の高齢者だ。
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「マーケットが薄く、インバウンド効果が弱い」
「観光地としてのパワーが薄れている」
「新たな開発で商業規模を拡大するより、既存エリアの新陳代謝を高める方がいい」
神戸市が昨年から実施している聞き取り調査で、首都圏の大手開発企業が語った三宮の将来性への評価は辛辣(しんらつ)だった。要するに、集客力が弱っている三宮に伸びしろはなく、拡大的な開発はやめよという意見だ。
冒頭の共産市議の詰問と重なる指摘。それでも市住宅都市局幹部は「神戸空港の民営化や国際クルーズ船の増発着で訪日外国人客が増え、オフィス床の供給で企業誘致も進む。三宮再整備は、国際港都神戸の伸長に賭けている」と意に介さない。
りそな総研主席研究員の荒木秀之(42)は「確かに、訪日外国人客の増加は人口減少を補うが、働く人が減り、在宅勤務やリモートオフィスなど働き方が変わることを見越せば、オフィス床の需要は減るだろう」とみる。
「超成熟社会」を迎える中、東京を夢見るような一極集中型都市開発は立ちゆくのか。
同局幹部は続ける。「大阪、神戸、京都が世界を見据えて連携すれば勝ち残れる」。だが、その大阪では、三宮の求心力回復を脅かす開発が着々と進む。
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大阪・梅田。JR大阪駅北側の「うめきた」地区にある大型複合施設「グランフロント大阪」に、人々が吸い込まれていく。開業4年で累計の来場者数は2億人を超えた。外国人観光客の増加や人口の都心回帰の追い風で活況が続くと見込まれ、周辺でも商業施設の新設が相次ぐ。
さらにその北側には、約17ヘクタールの再開発区域「うめきた2期」が開発を待つ。関空と直結する鉄道新線「なにわ筋線」が2031年春に開通し、阪急電鉄も梅田と大阪(伊丹)空港を結ぶ「伊丹空港連絡線」の検討を始めるなど、交通結節点としての機能が高まる。
りそな総研主席研究員の荒木秀之(42)は「梅田に関西のさまざまな機能が集約される流れは避けられない」と指摘する。そのわずか30キロ西に位置する三宮の再整備に、荒木は「求められるのは規模ではなく、時代を先取りした新しい都市像を示せるかだ」と力を込める。
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戦後から高度成長期にかけて「山、海へ行く」の開発行政で名をはせた神戸市。それを支えた地価の上昇と人口増の成長神話は途絶え、大震災がまちを襲った。それでも経済成長と人口増を見込んで壮大な復興計画に挑んだ。
神戸空港や神戸医療産業都市構想の実績は当初の想定を大きく下回り、現在も浮揚の途上にある。新長田駅南再開発は過大な商業床と戦略なき店舗配置で売り上げは低迷し、東日本大震災後は、皮肉にも「復興の失敗例」として東北被災地からの視察が続く。
半世紀に渡って神戸の都市計画を研究してきた京都府立大学名誉教授の広原盛明(79)は、神戸市の拡大成長政策に「『足に靴を合わせる』ではなく、『靴に足を合わせる』硬直的な計画思想」と「物的環境さえつくれば計画目的は自然に達成されるというハコモノ主義」をみてきた。
成長シナリオを握りしめ、未来都市への助走を始めた三宮再整備。本年度中には、建設が予定されるビルの青写真が示される予定だ。広原は「問われているのは神戸らしさ。役所主導ではなく、市民の参加と、民間の知恵と発想が成否を握る」と強調する。
=敬称略=
(森本尚樹)