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 衆院選から一夜明け、台風一過の青空が広がった23日朝、JR伊丹駅前。兵庫6区で自民前職に敗れたが、比例近畿で復活を果たした立憲民主党の桜井周(しゅう)(47)が、当選後書き上げた政策チラシを配っていた。時折、出勤途中の会社員らが駆け寄り握手を求める。

 自民、公明両党が全12議席を独占した兵庫県内の小選挙区。立候補者40人の得票総数は217万票で、うち45%は立憲民主を含む野党4党と無所属候補が集めた。だが、「死票」が多い小選挙区制度の特徴もあり、兵庫関係の野党の衆院議員は桜井だけとなった。

 「県民のほぼ半数の思いを1人で背負っていくと思うと…。責任の重さを痛感する」。表情は当選の喜びより緊張が勝っていた。

 一つの政党から1人の候補しか出ない同制度は政党間競争の色彩が強まる。今回、追い風が吹いたのが、東京都知事・小池百合子率いる希望の党への合流を拒んで民進党から分裂し、野党第1党に躍り出た立憲民主だった。

 公示わずか1週間前の結党だったが、党のツイッターのフォロワー(読者)数が自民を抜き首位となるなど、ネットを中心に注目を集め、瞬く間に台風の目に。小池が入党条件に示した安保法容認などの「踏み絵」を拒否し、新党立ち上げに動いた代表枝野幸男に「筋を通した」と好感が集まり、入れ替わるように小池の希望は失速した。

 その変化は民進出身で、立憲民主から立った桜井も肌身で感じていた。当初は党名を告げても「何やそれ」という反応が目立ったが、日に日に「枝野さんのところなら応援する」「比例は入れる」といった声を掛けられるようになった。

 「選挙戦を通じ、信念を貫く重要性を学んだ」と桜井。ただ、うれしい誤算の一方で複雑な思いもある。「民進党の決定に従い、希望に移った多くの仲間が討ち死にしてしまった」

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 「当選できず申し訳なく思っております」。桜井の駅立ちと同時刻、神戸市のJR六甲道駅前には、兵庫1区で敗れた希望前職の井坂信彦(43)がいた。自民前職とは約1万2700票差。惜敗率は桜井を上回るが、希望の比例獲得議席が伸びず復活も逃した。

 国会で度々質問に立ち、首相安倍晋三にも舌鋒(ぜっぽう)鋭く迫るなど豊富な活動量を誇ってきたが、選挙区や比例復活で当選した過去2回から大きく得票を減らした。

 「政権交代できる野党第1党をつくるには(民進と希望の)合流しかなかった。その後の『いろいろ』がなければ、自民が大きく減らす可能性はあった」と前を向いたが、「日本維新の会がいなければ勝っていた」と漏らす場面も。東京と大阪で「すみ分け」た希望と維新は兵庫では競合し、ともに全敗を喫した。

 その維新も、話題をさらった希望や立憲民主のはざまに埋もれて本拠地・大阪でも苦戦し、全体では公示前の14議席から11議席に勢力を縮小。兵庫8区など各地で「野党共闘」を演出した共産党も9減の12議席に後退した。立憲民主の躍進、保守系野党や野党共闘の不発…。この結果はどんな民意を示しているのか。

 審判は下ったが、自公は3分の2超の議席を保ち「安倍1強」が続く。何のための解散だったのか。各党の戦略や思惑が交錯し、そこにはそれぞれに誤算もあった。戦いを振り返り、今後を展望する。=敬称略=

(衆院選取材班)

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