「皆さんの力添えをお願いしたい」
1日、神戸市垂水区の会館に市長久元喜造(63)を招いた集会。主催した民進系市議団団長、藤原武光(67)が頭を下げた。久元の退場後、藤原は「もう2分だけ」と呼び掛けた。
登壇したのは衆院兵庫3区(同市須磨、垂水区)で民進から立候補を予定していた新人。希望の党への合流で民進の公認を失った。希望の公認も定かでない中、藤原は「どの党から出るか分からないが、どうか応援を」と再び頭を下げた。
国政で自公との対決姿勢を崩さず、「小池ショック」で分裂に追い込まれても、市長選では自公とともに現職を推す民進。藤原は「過去にも3党で戦っており、矛盾はない」と話す。
国政の与野党が市長選で同じ候補を推薦する相乗りの構図。過去の神戸市長選で何度も例はあるが、与野党が激突する総選挙との同日選は史上初だ。維新推薦の光田あまね(40)陣営と、共産推薦の松田隆彦(58)陣営は「なれ合い、もたれ合いの市政だ」と批判を強める。
2009年、当時の現職矢田立郎(77)は政権を奪取した民主党の戦略で、相乗りを断ち、現職では異例の民主単独推薦で3選を果たしたが、外された自公との間にしこりを残した。兵庫県内の複数の現役市長は「議会の大多数を味方にするのが常道だ」と指摘する。
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「議会の議事は、出席議員の過半数でこれを決す」
地方自治法116条は過半数議決の原則を定める。市長は議会の過半数の承認を得なければ市政を進められない。だから、市幹部は審議前に議会各会派を回って議案や予算を説明し、理解を求める。
県内の現役市長の一人は「各会派が是々非々では計算ができない。市長を支える与党がほしいのは、どの市長も同じだ」と話す。議員側も与党となれば、行政への影響力を強められ、提案した政策が実現しやすくなる。
県内のある市の元幹部は「与党議員には審議前に質問と答弁をすり合わせ、議会でも市長が答える。野党には部長らで済まし、成果も与えない。与党と野党で差を付けるのはどの自治体もやっている」と明かす。
こうして、多くの自治体に与党が構成され、国会のような政党対立もないまま相乗りの構図が生まれる。市長と与党はそれを「付き合い」と呼び、野党は「なれ合い」と批判する。
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加古川市長の岡田康裕(42)は14年、前市長の後継候補を破って初当選した。元民主党衆院議員だったが、選挙前に離党した。
与党会派を持たない岡田は「先走りや強引な運営など感情的にこじれることなく、政策ベースで向き合えば、議会側もむげに議案を否決しない」と話す。逆に相乗りオール与党体制を「議会にもプライドがある。何でも通してくれるとは思えない」と冷静に見る。
とはいえ、一定の票数と信頼度を保証する政党推薦は候補者を魅惑してやまない。さらに、神戸市議の一人は言う。
「政党も選挙を一緒に戦ってこそ、与党として市政に影響力を持てる。相乗りは自然な流れだ」
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22日投開票の神戸市長選が8日、告示される。行政トップがどう振る舞い、組織をどう動かすことが市民の利益になるのか。兵庫県内外の首長の流儀や手法にヒントを探った。=敬称略=
(森本尚樹)