■女性リーダー育成へ講座

　「掃除は女の子が行い、男の子は外に遊びにいってください」

　先生が、教室の子どもたちに呼びかける。女の子たちは「なんで？」と怪訝な表情。楽しそうに遊ぶ男の子たちを窓越しにちらりと見ながら、机を移動させ、床をほうきではく。その様子を別室で見ていた父母がばつが悪そうな顔で見合わせた－。

　家事の分担について考えるきっかけになればと、家庭用洗剤大手「ジョンソン」が公開し、交流サイト（ＳＮＳ）上で話題になったウェブ動画「お掃除参観」だ。２０１９年５月、兵庫県豊岡市であったジェンダーギャップ解消のシンポジウムで流されたこの架空の小学校の映像に、城崎温泉街（同県豊岡市）に住む井垣真紀さん（５１）は、くぎ付けになった。

　期せずして浮かび上がった「ジェンダーレンズ」が、写真館を営むわが家の日常を映し出す。撮影から帰ってくると、一息つく間もなく晩ご飯を作り始め、子どもたちの宿題をチェックし、風呂掃除。「いい奥さん」「いいお母さん」だと思ってせわしなく動いてきた。

　でも、心の片隅に「なんで？」が残っていた。

　２１年に豊岡市が実施した調査では、仕事の時間は１時間女性が短く、家事・育児は女性が男性の３倍長かった。話し合いで分担を決めた人は少数で、「何となく」が半数を占めている。

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　「夏休み中は放課後児童クラブの開始が遅く、会社の始業に間に合わない」「回覧板を回すのが大変だからペーパーレス化してほしい」。市内の女性たちが、日常の具体的な困り事を次々に明かしていく。

　政治や経済、地域など各分野でのリーダーの育成を目的に、２２年に市が初めて開いた連続講座「豊岡みらいチャレンジ塾」での一場面だ。井垣さんを含め、経営者や子育て中の会社員、専業主婦など市内の女性３４人が参加。毎回、前半では化粧品大手の社長や政治学者、最高齢プログラマーなど各分野で活躍する女性が講師を務め、後半では参加者同士で意見を交わし、発表し合う。「身近な困り事は、視点を引き上げればまちづくりの改善点へとつながる」などと思考方法を学び、回を重ねるにつれて堂々とした発表に変わっていった。

　チャレンジ塾の創設に当たって市が参考にしたのが、徳島県がその４年前に始めた「とくしまフューチャーアカデミー（ＴＦＡ）」だった。

　今年１月の会合では、登壇した講師が、働く女性に社会構造上の壁が多いことや、高齢女性の貧困率が高いことなどを紹介。その後、それぞれ自分のキャリアを振り返り、目標を発表し合った。

　ＴＦＡの事業を受託するＮＰＯ法人の笠井誉子さん（５６）は「リーダーというと強く引っ張っていくイメージを抱きがちだが、基本は自分がどう生きたいか、主体性を持つことが大事」と話す。地方ほど女性に対する期待値が低い傾向があるといい、リーダー育成の場の重要性を強調する。

　徳島県の施策や方針などについて話し合う審議会委員の女性割合は、２１年４月時点で５０・６％。ＴＦＡに参加した委員もおり、全国の都道府県で唯一、半数を上回っている。

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　今年２月、城崎温泉の井垣さんは、ある挑戦をした。

　温泉の管理や活用に関わる「湯島財産区議会」の議員に名乗り出たのだ。１８９６（明治２９）年から続く財産区議会で、女性議員は初めて。「旦那文化」の城崎温泉街では、注目の出来事だった。

　「『女なのにでしゃばるなんて』と思う人もいるかも」と不安がよぎったが、「（外湯の施設に）女湯があるんだから議会に出てほしい」という応援を受けた。

　「女性の意見を通したいというよりも、男性に任せきりだった部分を変えたかった」。温泉街は新型コロナウイルス禍で一時は無人になった。３０代で結婚を機に移住してきた自分を、親戚のように受け入れてくれたまちを守り続けたい。

　初の女性議員という点にばかり目がいくが、根っこにあるのは、地元に対する明快な思いからだった。

　動画にくぎ付けになったあの日から４年。家庭では夫や子どもたちがすすんで家事をしてくれている。「あらゆる場面でジェンダーの話題に触れ、じわじわとみんなの心に入っていったのかも」

【メモ】女性リーダー育成を目指す行政主催の塾は、２０１０年から続く小野市の「おのウィメンズ・チャレンジ塾」が定着しており、市議や起業家などを輩出してきた。１１年の市議選では３人の女性議員が誕生し、１９年には７人に増えた。北播磨地域でも広がりつつある。

【バックナンバー】
(2)地域(上）　婦人部の名称変える？
(1)プロローグ　だんじりは男子だけ？

【特集】都道府県版ジェンダー・ギャップ指数