「兵庫という県はデータ上、限りなく全国平均に近い」
6月中旬、神戸ハーバーランドの神戸新聞本社。特報班の4人は、県統計課参事、芦谷(あしや)恒憲さん(55)の解説に耳を傾けた。
知る人ぞ知る「統計のプロ」。大学で経済統計学を学び、統計課の在籍は通算21年。県立大の客員研究員を務め、論文が学会誌に掲載される。
「大半の項目は全国7~8位。人口や県内GDP(総生産)の割合になぞらえて『4%経済』なんて呼ばれる」
両端の県を除き本州で唯一、太平洋と日本海に接し、「日本の縮図」と言われる兵庫。合計特殊出生率や婚姻率など「人口・世帯」の基礎的データ18項目のうち8項目で、全国平均との近似値はいずれも3位以内(2010~13年のデータ)。高齢化率は23・1%で0・1ポイント差で最も近い。人口や寿命について県が抽出した主な指標(10年)を使い、全国平均を1として兵庫の値を円に描くとほぼ重なる。
兵庫を見つめると、日本が現れる。兵庫県での勤務経験がある厚生労働省の官僚伊沢知法さん(45)は「兵庫で失敗するような施策は、全国的にうまくいかないでしょうね」。
‡
そこでひとつ、疑問が湧く。
前回紹介した法政大の「幸福度ランキング」。40の指標で都道府県を比較し、4年前に発表された調査だが、兵庫は45位だった。「何でも7~8位」「全国平均」ならば、矛盾しないか。
芦谷さんの解説はこうだ。40の指標は、持ち家の広さや所得、失業率、医療費など、暮らしぶりのデータが多く盛り込まれている。 職を探したい、専門医療を受けたいといった課題を抱えた人は都会に集まりやすく、結果的に、都市圏を抱えると順位が下がる。同じような考え方で旧経済企画庁が1974~99年度取り組んだ「新国民生活指標(旧社会指標)」でも北陸地方が高く、兵庫は30位台後半が指定席だった。
物差しによって、地域の力の見え方は異なる。経済データ一辺倒から、「幸福」という価値観で測ろうとする時代の要請もある。
もう一つ、芦谷さんは気になることを言った。「平均的だが、どこにも似ていない」
総体は日本そのものなのに、項目別の強弱や傾向は、類似の都道府県が見当たらないというのだ。
「それは、別々の生活経済圏を人工的にくっつけてできた県だから。そんな県、他にはない」
‡ ‡
摂津、播磨、丹波、但馬、淡路「旧五国」と呼ばれる地域が一緒になり、1876(明治9)年におおよそ現在の形になった兵庫県。県勢の謎を解くには、成り立ちをひもとく必要がありそうだ。次回は歴史からアプローチする。(岡西篤志)
2015/7/10