(1)「先生、明日来はるやろか」
(2)「祭り言うたらやっぱりやっさ(屋台)やのう」
(3)「ピリピリしてったで(雨が降り始めた)」
(4)「だしけー、くれへん方がええでて言っただんかー(だから、来ない方がいいと言ったでしょ)」
(5)「明日休みだー?(休みですか?)」
「すべて兵庫の言葉。地域によってこんなに違うんです」
方言に詳しい甲南大の都染(つぞめ)直也教授(56)が説明してくれた。それぞれ(1)摂津(2)播磨(3)丹波(4)但馬(5)淡路-の旧五国を中心に伝わる表現だ。
違いを認めつつ、互いに干渉はしない。そんな県民性が言葉によく表れているという。
前回紹介した「平均的だがどの都道府県にも似ていない」兵庫。異質性の鍵は、旧五国にあり、か-。
神戸、加古川で学習塾を開く北浦壮さん(35)=神戸市灘区=は実感を語る。「僕のような大阪の人間は皆『大阪出身』と言う。でもここは神戸出身、姫路出身。『兵庫出身』とは聞いたことない」
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「兵庫に『県民性』を求めるのは難しい」。県内の歴史に精通している園田学園女子大名誉教授の田辺眞人さん(67)から、残念な言葉が飛び出した。
兵庫県が歴史に初登場するのは1868(明治元)年。明治政府が接収した旧幕府直轄領が県域となった。3年後の廃藩置県で摂津国の一部だった神戸・阪神間に拡大。76年には姫路を中心とする飾磨県、丹波の一部と但馬を含む豊岡県、淡路島と合併した。
最たる理由が「港を中心とする神戸の補強」。特に大きな力を持っていた旧飾磨県を中心に、神戸への対抗意識が強く残る。
とはいえ、一つの県になってもうすぐ140年。このままバラバラなのは少し寂しい。
すると都染教授が「実は、少し歩み寄っている言葉があるんですよ」と教えてくれた。
それは「来ない」の言い方。伝統的な方言では、けーへん=摂津▽きやへん=播磨、丹波▽くれへん=但馬▽きえへん=淡路。だが最近、全地域の若者が、播磨の西北部で聞かれる「こーへん」を使う傾向があるとか。
「『けーへん』の大阪とは違う、兵庫の独自語が生まれつつある」
近世まで存在した66国を45都府県(北海道と沖縄県除く)で割れば平均1・5国だが、兵庫はその3倍以上。田辺さんは提案する。
「いわばひとつの国際社会ですよ。交流しない手はない。そこからおもしろいものが生まれるかも」
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統一感はないけど多様さではどこにも負けない。そんな兵庫に向き合い、融合の強みを生かそうとする人たちに会いに行った。(岡西篤志)
2015/7/11