「人生100年時代」「老後2000万円問題」などが取り沙汰され、若い世代も「老後」や、その後にある「死」を意識する人が増えています。一方、こういった話や思考はネガティブに捉えられるきらいがあり、あまり話をしたがらない人も多く、「老後」や「死」について漠然と「よろしいことではない」「恐ろしいものである」といった感じで捉える人も少なくないのではないでしょうか。
そんな中、刊行されたアメリカの桂冠詩人ドナルド・ホールによる『死ぬより老いるのが心配だ 80を過ぎた詩人のエッセイ』(田村義進・訳)&books(辰巳出版)刊という本が話題です。
韓国の人気ヒップホップグループ、BTSのJIMINが絶賛したことで韓国ではベストセラーとなり、幅広い世代に知られることになった本書。
筆者は本書を読む前、このタイトルから「逆説的な死生観を綴ったものかな?」と思いましたが、そういう簡単なことではなく「老い」を経て「死」に近づいていく日々を叙情的に、そして冷静に向き合った日常と思いが多く綴られています。ここでは本書の中から、いくつかの言葉を抜き出しご紹介します。また、後半では翻訳者の田村義進さんにお聞きした話も合わせてご紹介します。
■80歳を過ぎたドナルド・ホールが綴った言葉の数々
以下の言葉は、エッセイの中のもので当然前後の行間があるため、ある種の「(実用的な)名言」として扱うには少々抵抗がありますが、特に印象的だったものを抜粋します。
「私は80代まで生きながらえ、ものを書き、身体に障害があり、たいていは独りでいるが、奇妙なくらい楽しい。そこにあるのは一本の道だけだ。」
「聴衆から好意を寄せられたり、不死の人間であるかのように崇められたりしたときに、喜ぶのはいいが、信じてはいけない。」
「ひとは名誉を名誉と思い、不名誉を不名誉と思う。ときには不名誉を名誉と思うこともある。上品と下品。仕事と私事。受難と生存。」
「もうすぐ私は死ぬ。そう思い定めるだけの分別は持っているつもりだ。眠りにつくのではない。」
「死亡欄や記事や訃報やEメールのなかでは、日々、何百万というひとが“永眠”する。誰も“死ぬ”とは書かない。安らかに眠る、世を去る、骨になる、旅立つ、往生する、息をひきとる、みまかる、神に召される、あの世へ行く、看取られる、主のみもとに帰る、没する、逝去する、他界する、などという。
どんなきれいな言葉を使っても、死は死だ。」
「親しい者はわたしを悼んでくれるだろう。だが、わたしはそのそばで想いを分かちあえない。」
「わたしにとって、問題は死ぬことではなく、老いることだ。困るのはバランス感覚を失うことであり、膝が弱ることであり、立ったりすわったりするのがむずかしくなることだ。」
これらの言葉から感じるのは、「死」とは人間に等しく起こることであり、そこに特別な意味などは実はないということです。ただただ「死ぬ」という事実だけであり、しかし、だからこそ冷静に、誠実に「今を生きる」ことの大切さも同時に感じられます。
こんなふうに書くと少々重く感じる人がいるかもしれませんが、本書の全体的なタッチは軽快でときにコミカルな表現もあり、ことさら重々しいものではありません。このこともまた、本書が幅広い層からの支持を受けた理由の一つのように思いました。
■訳者・田村義進さんに聞いてみました!
本書で綴られている「言葉」は表現が多彩であり、そのことが前述のような「読みやすさ」につながっているとも思いました。同時に、原著からの翻訳はかなり大変だったのではないかとも思い、ここでは翻訳を担当した田村義進さんに話を聞いてみることにしました。
--翻訳で苦労した点はなんですか?
田村義進さん(以下、田村) 簡潔で明快な文章なので、そんなに手間はかかりませんでしたが、訳出するにあたって特に気をつけた点をあげるなら、まず原文の軽妙な味わいを損なわないようにすること。日本人にはなじみの薄い固有名詞や人名を違和感のないよう訳文中に組み入れること。詩人ならではの突き抜けたメタファーを説明的になりすぎず、けれどもなんとか理解可能なものにすること。随所にちりばめられたさりげないユーモアを見落とさず、同じようにさりげなく訳すこと、などでしょうか。
--原著を最初に読んだときの感想をお聞かせください。
田村 担当の編集者さんから「BTSが推している本なので読んでみてくれないか」と頼まれたときには、恥ずかしながら、BTSがなんであるのか知りませんでした(一瞬ラジオ局かなと思ったりしました)。著者のドナルド・ホールのこともやはり何も知らなくて、人生論のような内容のものだろうと勝手に思いこみ、少し腰が引けましたが、あにはからんや。〈窓辺から〉のリリシズム、〈一本道〉の懐旧の念の甘酸っぱさ。〈ヒゲ〉の自虐的なユーモアの妙……思わず膝を打ちました。
--本書の魅力と、まだ読まれていない方へのメッセージをお願いします。
田村 年をとってくると、自然との親和性はいや増し、そのうつろいは過去のいくつもの思い出と重なりあって、どこまでも美しく、愛おしく感じられてきます。そのことに気づかせてくれるのが本書の最大の魅力だと個人的には思っています。齢72にして伊豆の山中に独居している自分には、とりわけ響きあうものが多く、本書は若いころの無謀な日々を懐かしみ、亡くなったり別離した者のことをしみじみ想う穏やかな良いときをもたらしてくれました。
ひとは年をとり、多くのものを失い、先に残されたものは段々少なくなってきますが、過去に残してきたものは多く、そのいくつかは決して忘れることのないものとして滋味豊かに積み重ねられていきます。語るべきことは増えこそすれ、減ることはない。そんなふうに考えると、老いるのも衰えるのもそう捨てたものではないかもしれません。
著者は「老い」や「死」に対するネガティブな捉え方をいったんまっさらにし、本当の意味での「生きる」ことを綴っているように思いました。田村さんの言葉にもあるように、同時に「老いること」が必ずしも悪いことではないことを感じさせてくれる一冊。是非ご一読ください!
(まいどなニュース特約・松田 義人)
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