急に頬を触られる恐怖(とあるアラ子さん提供)
急に頬を触られる恐怖(とあるアラ子さん提供)

職場における3大ハラスメントであるセクハラ・パワハラ・マタハラは絶対に無視してはならない問題です。社会もこれらの根絶を目指してルールの改定などに励んでいますが、悲しいかな、いつの時代も“誰かを困らせる存在”は必ず現れてしまうもの。

漫画『セクハラで会社辞めた話』を執筆した作者のとあるアラ子さんもハラスメント被害者の1人です。リアルな体験を描いた投稿がX(旧Twitter)で話題を呼び、作品に対するさまざまな意見が寄せられました。

アラ子は高校卒業後、実家から徒歩5分の印刷会社へ就職します。配属先は見事に男性まみれで、18歳の彼女はちょっぴり期待に胸を膨らませながら、社会人デビューを果たしました。

しかしウキウキしていたのも束の間、会社の男性陣は業務に厳しく、アラ子は失敗続きの毎日を過ごします。唯一の楽しみだった女性社員同士のランチにも呼ばれなくなり、すっかり“ぼっち”と化した彼女に唯一優しくしてくれたのは、管理職ではないものの現場で一番偉いK川(35)でした。

アラ子は話し相手になってくれて、頼り甲斐のあるK川に少々依存気味になっていきます。そして日を追うごとに2人は親密になっていき、K川から恋愛感情らしき“何か”を感じるようになるのでした。例えばK川は特に用事がなさそうなのに後ろをついてきたり、必要以上に視線を送ってくるなど……。

そして遂にゴミ捨ての帰り道、他人の目がないのをいいことに、K川はアラ子の頬に手を触れてきたのです。K川は社内でセクハラに対して厳しく取り締まっていたため、「まさかそんな人だなんて」とアラ子はひどくショックを受けます。このセクハラをきっかけに、K川の真の姿が次々と露わになるのでした。

そのひとつが、女子社員からランチに誘われないように根回しをし、アラ子が独りになるように仕向けていたのはK川の指示だったことです。また、彼は女性社員(アラ子)が部署にやって来ると聞いた瞬間、新人の教育係を名乗り出ていました。

アラ子が「この人、何がしたいんだろう」とモヤモヤを抱えていると、追い打ちを掛けるかのような連絡攻撃が彼女を襲います。それはK川からの怒涛の電話着信でした。しかも留守電には「K川です。仕事終わったよ。アラ子ちゃん大丈夫?」、「車で迎えに行くよー」など、まるで彼氏か!?と疑うようなメッセージも残されています。

一旦無視してアラ子は眠りについたものの、いつも通りの朝がやってきます。K川さんへの恐怖と会社へ行かねばならない義務感の板挟みとなったアラ子さんは、頭の中に「退職」の二文字が浮かび始めるのでした。

じわじわと迫ってくるセクハラの恐怖を描いた同作について、作者のとあるアラ子さんに話を聞きました。

■被害者がどんなに未熟であっても、セクハラは人権侵害

-本作品を執筆したきっかけを教えてください。

この漫画を描いたのは2015年頃です。当時、セクハラ問題を扱ったドラマが話題になっており、自分自身の体験を作品として描いてみようと思ったのがきっかけでした。

-反響が多いですが、気になったコメントやDMなどはありましたか?

「主人公が仕事を真面目にやっていないので同情できない」という感想がいくつかあり、印象に残りました。被害者がどんなに未熟であっても、セクハラは人権侵害です。そのことを伝えたくて、あえて自分が“理想的な被害者”ではなかった部分も隠さず描きました。

それでもまだ、多くの人の中に「被害者はこうであるべき」という無意識のイメージが根強いのだと感じました。

-K川さんで埋まった着信履歴の画を見て寒気がしました……。退職された今、心の傷は多少なりとも癒えていますでしょうか。

退職したのは19歳のときで、今は42歳になりましたから、さすがにもう傷は残っていません。ただ当時は、街でK川さんに似た人を見かけると気分が悪くなることもありました。

むしろ辛かったのは、セクハラが原因で一年も経たずに自己都合退職となり、その後なかなか就職できなかったことです。加害者にとっては軽い気持ちでも、被害者にとっては人生設計が狂ってしまうほどの大きな出来事なんですよね。

-最後に読者へのメッセージをお願いします。

同作の続きは、タイトルを『100日後に会社を辞めるOL』に改題し電子書籍(Kindle限定)として配信中です。もし興味を持っていただけたら、ぜひ読んでみてください。

◆たかなし亜妖(たかなし・あや)元セクシー女優のシナリオライター・フリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ゲーム会社のシナリオ担当をしながらライターとしての修業を積み、のちに独立。現在は企画系ライターとしてあらゆるメディアで活躍中。