河川や用水路などの水辺に生息するヌートリア。南米原産のげっ歯類の動物が、なぜ日本で野生化しているのか。その始まりは、第2次世界大戦にまで遡り、近年は農作物を食い荒らされる被害もあるという。ヌートリアを発見したらどう対応すればいいのかを、大阪府環境農林水産部動物愛護畜産課野生動物グループ(以下、大阪府野生動物グループ)に聞いた。
■軍服用の毛皮を採るために輸入されたヌートリア
ヌートリアは南米原産の齧歯類、すなわちネズミの仲間で体長50~70cm、尾長35~50cmの哺乳動物。日本に生息する齧歯類では、最も大きいといわれている。河川、溜池、農業用水路の土手に巣穴を掘り、水陸どちらの草も食べる。外見の特徴は、オレンジ色の前歯と、水かきのついた大きな脚。手は小さいが、モノを掴むことができる。
繁殖期はとくになく、年に2~3回。一度に5~6頭の子を産むから、繁殖力は旺盛だ。
筆者が目撃した際には河川敷に生えている草を食べていたが、根菜類や葉菜類、あるいは稲など農作物を食べることもある。
「水生植物を大量に食べるため、水生植物をエサや隠れ家等として利用する動物に影響を与えるといった生態系への影響も考えられています。さらに、イシガイを捕食するため、イシガイを産卵場所としているタナゴ類(魚類)が繁殖できなくなっているといわれています」
そのため環境省によって、特定外来生物に指定されている。
もともと南米原産のヌートリアが、なぜ日本で野生化しているのか。それは1939年頃から、軍服用の毛皮を採るために輸入されたからだ。飼育場から逃げだしたり、戦争が終わって用済みになった個体が放逐されたりして、代替わりを繰り返しながら生き続けているのだという。
2008年の被害面積は100ヘクタール(農林水産省調べ。1ヘクタールは100メートル四方)。また、大阪府野生動物グループによると、2019年の捕獲頭数は1万頭。2021年の被害金額は約4700万円とのこと。
大阪府下に絞れば、生息域は2008年頃まで淀川以北で確認されていたが、近年は大和川以南でも目撃されている。筆者が目撃した場所も、大阪市住吉区の大和川河川敷である。
「大阪府の広い範囲に生息域を拡大しています」
■被害を受けても捕獲や駆除をするには市町村長の許可が要る
ところでヌートリアは、人を襲うことがあるのだろうか。
「危険を察知すると水中へ逃げ込む習性があり、積極的に人を襲う性質はありません。しかし大きく鋭い歯をもっており、噛まれると重傷を負う恐れがあります。見つけても、不用意に近寄らないようにしてください」
農家はいうに及ばず、家庭菜園も食い荒らして被害をもたらす。近年は都市部の河川でも目撃されるようになり、大阪城のお堀を泳ぐ姿が目撃されたこともあるという。
「分布拡大が進行しているところですが、この春(2023年)以降は、急激に被害等が増加しているという情報はありません」
しかし一方で、淀川の城北ワンドでは、イタセンパラという希少なタナゴ類を保全するために、環境省による駆除活動が行われているそうだ。
自分の土地で何らかの被害が生じている現場に遭遇した場合でも、駆除するには市町村での手続きが必要だ。
「ヌートリアを目撃した場合や、農業被害でお困りの場合は、まずは市町村の外来生物駆除を担当する窓口にご相談ください」
危険を感じると、水中へ逃げ込むというヌートリア。筆者が目撃した個体は、人の姿が視野に入っているはずなのに悠然と草を食み、動じる様子は認められなかった。しかし相手は野生動物である。どこでスイッチが入って噛みつかれるか分からないため、不用意に近づかないほうがいいだろう。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)
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