「危険情報は正しく伝えられていたか」。LPG漏れがあった日、六甲アイランド小学校に避難した神戸大学地域安全計画研究室の大西一嘉助手は疑問を投げかける。
大西さんの言う情報には二つある。事故が起こる前から示される知識・情報。もうひとつは事故発生後に伝えられる現状報告だ。
避難勧告の発令中、対策本部から各避難所に現状報告はなかった。「引火すれば、何キロの範囲でどういう事態が起きるのか。だからどうすべきなのか。判断するに足る情報がなかった」と大西さんは振り返る。
事故前の情報も住民に示されていなかった。
事業所のある東部第二工区は、一九六五年に埋め立てが完成した。三菱商事のLPG輸入基地として計画された。中東から輸入し、水島や四日市の工場へ送り出す。一部は家庭用やタクシー燃料に加工される。
七二年、神戸市は六甲アイランドの埋め立てを始める。タンクは関東大震災級の地震に耐えるという安全神話があった。臨海部の事業所は、人工島によって”内陸部”となった。
「都市部にタンクがあるのは、低コストでガスを安定供給できるからだ。運ぶ距離も短くなり、結果的に安全につながる」と事業所は説明する。
今回の事故は、都市の経済性と安全性は両立可能かという問題も投げかけた。
今も記憶に生々しい惨事がある。六五年、西宮市内の国道でLPG五トンを積んだタンクローリーが横転、爆発し、死者五人、全焼十八棟などの被害を出した。この事故で、タンクローリーの構造は強化されたが、LPG対策全体はどうだったのか。
地震発生時、同事業所には二万トンタンク三基に、計約二万二千トンが保管されていた。爆発の破壊力は西宮の事故を思い返しても、計り知れない。
「安全神話は存在せず、完全な耐震構造などない。危険を許容するかどうかは、社会が決めることだが、それを判断するにもリスクの情報公開が欠かせない」と大西さんは言う。
いま、通産省の調査委員会が、ガス漏れしたバルブ部分を精査している。液状化で不等沈下を起こした地盤や、事故後の事業所の対応も検証するが、避難勧告は含まれていない。その理由を同省環境立地局は「原因究明が主目的であり、避難勧告は通産省の範ちゅうではない」という。
「二次災害に至らなかったのが不幸中の幸い」と、事業所の芦原克彦所長は明かす。「調査委の報告や行政の指導に沿って復旧、安全対策を講じ、半年後の再開を目指す」と語る。
行政も、企業も、阪神大震災の被害規模を「想定外」とし、想定の幅を広げることで解決しようとしている。が、議論がその範囲にとどまる限り、再び同じテツを踏まないか。今後も起こり得る「想定外」に、何をどう備えるのか。震度7に耐える強固な設備だけではあるまい。(おわり)
1995/3/6