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 「公営がよくて、なぜ民間がいけないのか。ルールが違うのはなぜか」

 神戸市役所十四階の特別会議室。一月十四日、市長・笹山幸俊は記者会見でこう口にした。国は、災害公営住宅に限って家賃を大幅に軽減した。民間賃貸へは、県、市が復興基金事業で補助するが、被災者の負担には大きな格差が残る。笹山は「同じ被災者でありながら」とも言った。

 公営 最低八千三百円
 民間 最低二万三千円

 市街地の2DK、家賃四万六千円の新築住宅で、最大限に補助を受けた後の負担額の試算だ。公営は入居者の収入などに応じて額が八段階にスライドする。民間への支援策は、今春の拡充後も、上限三万円。六万円未満の家賃なら、補助額は二分の一だ。

 会見に同席した住宅局幹部は話した。「基金事業を見直しても、公営並みにはならない。明らかに公営は有利」

 市住宅局のファイルキャビネットには、一通の要望書が残っている。公営住宅の家賃軽減などと並び、四番目に「民間賃貸住宅への家賃対策補助の創設」と項目があった。

 話は、昨年三月末にさかのぼる。総理府五階の特別会議室で、復興住宅担当者会議が開かれた。要望書はそこで示された。

 出席者は建設、厚生、自治各省の課長クラスと兵庫県、神戸市の担当者。県、市は、郊外立地が中心になった公営住宅の整備計画をにらみ、「公営一辺倒の住宅施策では、元の地域に戻りたいという被災者の願いにこたえられない」と判断、民間賃貸を活用したい考えだった。

 しかし、要望は一しゅうされた。国側は、その場で「困っている人には公営住宅に入居してもらうのが筋」と回答。「戸数が足りないなら、公団や民間の住宅を公営として借り上げる方法がある」と代案を示した。

 長田区の国道2号に面する一角で今、工事が進む。四階建てのそのビルには被災者向け住宅八戸が入る。

 二月二十七日から始まる一元募集で、同市は初めて民間借り上げ型の公営住宅約百戸を供給する。その一棟だ。市は旧市街地で民間から約二千戸を借り上げる計画を立て、建設省も「公営のワッペンをはることで家賃低減も可能になった」と説明する。

 そして付け加える。「公営扱いにしないと、『住宅に困窮している』だけで補助したのでは、全国的な公平性が担保できない」と。

 神戸市会の住宅水道委で繰り返された質問があった。「市の負担は今後、どの程度になるのか」。震災前の九四年度決算で、市営住宅の管理費は年間約八十億円。約四万戸だった戸数は、震災で、五万五千戸に膨らむ。

 毎年の市の負担が増えるだけではない。県営を含め、公営住宅に暮らす世帯が市内の一三%を超えるという、全国にも例がないいびつな都市構造が生まれる。

 「膨大な被災者を救済するメニューは公営住宅の供給しかなかった」。国、自治体は口をそろえる。しかし被災地の現実は、民間賃貸の再建支援や家賃補助策が、当初から欠かせなかったことを物語っている。

 市の幹部は話す。

 「確かに考えた、実現したかった。しかし、今は地方に財源がない。単独では無理だった」

(敬称略)

(鉱 隆志)

1997/2/24
 

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