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 政府が生活再建支援金を正式決定した一月十六日。阪神・淡路復興対策本部事務局長(国土事務次官)の竹内克伸は、震災二年を迎える神戸で講演に立った。「(支援金など)政府としてしづらいものは復興基金を活用して対応したい」。地元関係者は、支援金の意義を認めながらも漏らした。「公的補償という肝心の論議は消化不良のまま。すり替えに思えて仕方がない」

 支援金の実現は、政府、地元自治体にとって、特筆すべき成果だった。それを示す一つの出来事が、昨年末に起きた。

 講演の三日前、一月十三日。各省の事務次官クラスと県、市の代表が顔を連ねる「復興協議会」が東京で予定されていた。国は支援金制度の創設をその場で表明する予定でいた。しかし年末、「国の理解が得られた」と兵庫県が先行発表。途端に、会議は流れた。

 「幻の復興協議会」。国の意向で中止された会議は今、そう呼ばれる。

 支援金は、恒久住宅に移った被災高齢者らに月額最高二万五千円を、五年間給付する。公的資金を個人支給する点で限りなく個人補償に近い。しかしその資金は、県、神戸市が出資する復興基金から出る。国はその財政支援に回り、直接の国費投入を避けた。一種のう回である。

 竹内の講演は続いた。「先般、神戸市が生活再建支援プランを発表した。政府としてできるだけバックアップしたい」。市とすり合わせ、同趣旨の対策を県も発表していたが、竹内の口から「兵庫県」の言葉は出なかった。文案を考えた復興本部の担当官は「あえて」と、作為を認めた。

 地元主導への国の不快感は、それほど強い。

 一月三十日、参院予算委での質疑。

 本岡昭次(県選出) 復興基金が行う事業は自治体独自の判断で可能か。

 白川自治相 地元の判断でなんの支障もない。

 本岡 では、支援金を月々ではなく一括支給することもできるのか。

 二橋自治省財政局長 これまで検討されたものを基本に運用されるものと思っている。

 自治体の裁量は、具体論になると、急にぼやける。

 一月十日、震災記念プロジェクトを話し合う国の検討委が東京で開かれた。閉幕前、委員でもある知事・貝原俊民は言い放った。

 「財政当局が認めないと何もできないのであれば、私が出席する必要はない」

 大蔵省を頂点にした集権システムへのいらだちを、貝原は隠さなかった。

 震災三年目。被災地、とりわけ自治体に、一種の閉塞(へいそく)感が漂う。公営住宅の家賃低減、無利子貸し付けの拡充、支援金。地元の要望が不十分ながらも実現するたびに、国の敷居はまた一段、高くなる。

 県などが求める災害に対する公的保障制度、作家・小田実らが進める公的援助法、あるいは被災者支援基金法案。議員立法という形で政治が動かない限り、自治体が成算を持って踏み込める”ポスト支援金”はいま、かすんで見えない。

 その支援金の給付は二カ月後、四月中にも始まる。

 「もらえる人、もらえない人。線引きで、不満が高まる」と神戸市幹部。財政との妥協が現場にもたらした、大きな懸念である。(敬称略)

(坂口 清二郎)

1997/2/21
 

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