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(8)自主、自律のうねり いま、転機のただなかに
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 「今は、半分を化粧し、半分はすっぴんのまま。これじゃお化けだ」

 駅をはさみ、南側は再開発で発展し、北側は不自然なほどひっそりしている。西宮市中心部の被差別部落。震災では六十二人が死亡し、約千二百戸が全壊した。

 お化け論は、地元の連絡調整役を担う協議会の吉田重信会長(68)が、市の幹部と会うたび、地区の発展の必要性を説くのに使う表現だ。

 吉田さんは、発展への地元課題の筆頭に、「自治会づくり」を挙げる。「自治会があれば住民の意思統一ができ、住環境整備も進む」

 昨年八月に二十一棟ある改良住宅の十六棟が連合自治会を発足させるまで、実は、地区内八町で自治会があったのは吉田さんが暮らす一町だけ。震災前、自治会づくりを呼び掛けても、反応は鈍かった。

 事情があった。二十四年前、西宮市と運動団体との間で同和行政をめぐる激しい闘争があった。それを境に、「すべての運動団体と距離を置くようになった」と同市。以後、同和対策は行政主導で進み、「行政頼みで、特別法に甘える体質が広まった」と、当の地区住民がいう。

 連合自治会が発足したきっかけは、改良住宅の家賃値上げだった。住民の声を行政に反映させるための団結だったが、結成から一年たって、会は地区内の不法駐車問題にも取り組み始めている。事務局長(64)は「改良事業もそろそろ終わり。行政ばかりに頼らず、自分たちで動かないと。住民に自治意識が出てきた。これからが楽しみ」と手ごたえを語る。

 一方、神戸市長田区の被差別部落でも、震災をきっかけに画期的な動きが芽生えている。ふれあいのまちづくり協議会が発行する「まちづくりニュース」。部落解放に異なる見解を持つ二大運動団体が隔月で共同執筆を始めたのだ。部落解放同盟は「主義、主張を前面に出さないようにしている」とし、全国部落解放運動連合会も「まちづくりに運動、立場は関係ない」と話す。願いは一つ。差別のない、住み良いまちの形成である。

 今春には震災後の二十一号分を収録した保存版をつくった。全解連神戸市協の森元憲昭書記長は「これまで、行政がおぜん立てして住民代表が話を進めるという図式だったが、まちづくりは住民一人一人の参加が大事。保存版をつくったのも、住民が震災後のまちづくりを体系的に知ることができるから」と話す。両団体が参加するまちづくり協議会は、住民共通の願いをうたう、まちづくり憲章の作成を考える。

 同和地区を対象にした多くの事業が一般施策へ移行しようとするなかでの自主、自律の動き。それは、なお厳しい側面を残す現実の中で、差別解消を大きく前進させる可能性を秘めている。

 西宮の同和地区では今、新たに二町で連合自治会結成の検討が進む。

 「ようやくここまで来た。自分たちの土地は、自分たちで守らないかん。そんな気持ちが出てきたようや」

 転機のただなかにいることを、吉田会長は、肌で感じている。

(社会部人権取材班・中山 敏暢、青山 真由美)=おわり=

1997/9/13

 

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