「三年」という年月が、住み慣れた街への復帰を遠ざける見えない壁となって県外被災者の前に立ちはだかる。今も兵庫県外で暮らす被災者の多くは高齢で、年々自力での生活再建が難しくなっていく。支援策も届きにくい中で、自力で立ち直ろうとする人たちは、元の街への思いを残しながら、ようやく根づき始めた新たな生活基盤で、懸命に再生の道を探る・。神戸新聞社が実施し、全国250人から寄せられたアンケートから「遠くで暮らす被災者」の姿を追った。(勝沼 直子、西海 恵都子記者)
生活の実態 高齢、独り身、一時のつもりが
一人暮らしか夫婦だけの高齢者世帯が、年金を頼りに低家賃の公営住宅で暮らす・。回答から浮かぶ典型的な県外被災者の「生活」はこうだ。
年齢構成は図の通りで、年金生活者が約6割、家族構成は一人暮らしが34%、二人が45%で、二人以下が約8割を占める。
兵庫県外に出た理由(複数回答)では、「自分や家族の病気」「避難所生活に耐えられなかった」「仮設住宅に当たらなかった」「親類を頼った」「行政の住宅あっせん」などが多く、身体的、経済的に弱い立場の高齢者がう余曲折の末、やむなく県外に避難したケースが目につく。
一時避難のつもりの県外生活が長引くことへのいらだちや、仮設入居者優先の復興住宅募集への不公平感などから、当時の選択を悔やむ回答も目立った。
「単身者は仮設住宅に当たらないと思い、聞き分けよく、県外の住宅あっせんを受けたのが失敗だった。すべての被災者支援策から見放された」(岡山県・60代男性)
「避難所の学校から早く授業を正常に戻したいと再三の要望があり、年金生活の身軽さゆえすすんで協力しなければ、と見知らぬ地に移った。復興住宅の募集が始まってみると仮設優先とは腹立たしい」(岡山県・60代男性)
京都市の60代女性からは「避難生活が長引き、世話になっている親せきとの関係が悪くなってきた」との訴えも寄せられた。
生活の実態(数字は%) | |
・70歳以上 | 32.0 |
・65~69歳 | 22.8 |
・60~64歳 | 16.8 |
・50代 | 13.2 |
・40代 | 9.2 |
・30代 | 4.4 |
・20代 | 1.6 |
住宅の希望 友もいる、医者も近い、だから
震災前に住んでいた街に「絶対戻りたい」「できれば戻りたい」との答えが3分の2に達したことは、住み慣れた土地への愛着の強さを示している。
戻りたい理由(複数回答)は、「生活に便利」(125人)「友人・知人が多い」(123人)に続いて、高齢者の健康不安を反映して「医療機関の関係」(59人)が3位を占めた。
戻るめどが立たない195人に「今後の住まいをどうするか」を聞いたところ(図参照)、持ち家、借家合わせて「県内公営住宅希望」が約5割あった。
住宅関係の要望(複数回答)でも、「元いた場所の近くでの公営住宅建設」(78人)「公営住宅の建設戸数増加」(75人)が並び、公営住宅への期待の強さを裏付けた。
一方、「現在の住まいに住み続ける」と答えた人は約2割いた。「震災直後は子どもの学校や夫の職探しで不安ばかりだったが、やっと今の環境にも慣れてきた。いつまでも神戸、神戸と言っていられない」(大阪市・50代女性)。三年という時を経て、何とか現在の生活を受け入れようとする姿もうかがえる。
住宅の希望(数字は%) | |
【持ち家】 | |
・県内公営 | 44.6 |
・現居住地 | 20.3 |
・県内公団・民間 | 1.4 |
・別の場所で購入 | 8.1 |
・親類と同居 | 2.7 |
・その他 | 23.0 |
【借家】 | |
・県内公営 | 51.2 |
・現居住地 | 23.1 |
・県内公団・民間 | 8.3 |
・別の場所で購入 | 2.5 |
・親類と同居 | 0.8 |
・その他 | 14.0 |
一元募集 仮設優先だし、競争率も高くて
これまで四回実施された復興公的賃貸住宅の一元募集について「毎回申し込んだ」が3割強(図)。第四次募集の抽選結果待ちの間にアンケートを実施したため、最後のチャンスにかける切実な声が寄せられた。
「震災後、学校を転々とした子どもも中学一年生。大事な時期だけに何としても神戸に帰りたい」(徳島県・40代女性)「92歳の親に体力があるうちに連れて帰りたい」(名古屋市・60代女性)
一方で、「一度も申し込んだことがない」との答えも半数近くあった。「募集を知らなかった」(広島市・60代男性ほか)「仮設入居者優先で競争率が高いので当たらないと思った」(和歌山県・30代女性)など、情報不足や条件が壁となっているケースも目立った。
一元募集の問題点(複数回答)は、「仮設住宅の住民が優先で不公平」(96人)「元いた場所での募集が少ない」(92人)が上位を占め、「全体の建設戸数が少ない」(46人)「募集情報が入りにくい」(41人)と続く。
一元募集(数字は%) | |
・毎回応募 | 32.4 |
・応募は途中でやめた | 15.6 |
・一度も応募していない | 48.0 |
・無回答 | 4.0 |
届かぬ要望 分かってほしい、こんな暮らし
国・自治体への要望では、「県外被災者の実態をきちんと調べてほしい」(115人)が最も多く、「復興公営住宅募集で、県内と県外、仮設と仮設外の区別をしないでほしい」が114人と並んだ。「支援策を利用しやすくしてほしい」「現在住んでいる市町村役場で支援策の手続きをさせてほしい」「総合的な相談窓口設置を」「わかりやすい情報提供を」など、県外被災者に対する細かな行政の対応を求める意見が多い。
悩みは深く 無気力、不眠、被災地にいたなら
県外生活で不自由な点に関する回答は、図の通りだが、被災者支援策や情報から置き去りにされているという疎外感や、人間関係の悩みが大きい。
「同じ被災者なのに、仮設入居者のおこぼれを、そのほかの被災者が取り合っているように思える」(徳島県・60代男性)「異文化の地で被災者として珍しがられ、いじくりまわされるのはつらい。震災の地にいればもっと理解があるのに」(千葉県・50代女性)と、やりきれない思いをぶつけている。
心と体の状態(複数回答)については、4割以上が「地震のことをしばしば思い出す」と答えたほか、9割が何らかの不調を訴えていた。
「緊張や不安感が強い」「頭痛・肩こり」「気分の浮き沈みが激しい」「涙もろくなった・いらいらする」「記憶力の低下」「無力感」「不眠」など複数の答えは多い。
「一息ついて初めて自分の心が深く傷ついていることに気づいた。心を開いて話せる相手がほしい」(岡山県・20代女性)。慣れない土地での生活は、目に見える以上に深く被災者の心身に影響を与えている。
悩みは深く(複数回答) | |
・支援の手が届きにくい | 111人 |
・知らない土地になじめない | 100人 |
・話し相手がいない | 98人 |
・被災地の情報が入りにくい | 92人 |
・仕事がない | 65人 |
・家庭との別居が続いている | 24人 |
・親類との同居が気になる | 12人 |
・特にない | 17人 |
・その他 | 34人 |
仕事の変化 消えた会社…頼りは年金だけ
震災後の仕事の変化を見ると、震災時に会社勤めだった人は、「仕事がない」が3割を含め、「失業し別の職についた」「転居に伴い転職した」「定年退職した」と、何らかの影響があった人が7割を超えた。
震災前と、その後の職業を比較すると、会社員が28%から13%に、小売り・自営業が10%から2%に減っていた。パートも減り、年金だけに頼るケースが増えていた。
仕事の変化 | |
・失業中 | 27.2% |
・定年退職 | 16.3% |
・失業し別の職に | 14.1% |
・転居に伴い転職 | 13.0% |
・震災前と同じ勤め先 | 16.3% |
・その他・無回答 | 13.0% |
被災者同士の交流拡大に力 県外ボランティア
街づくり支援協会は、全国各地のボランティア団体とのネットワーク化にも取り組み、各地で開かれた茶話会などがきっかけとなり、被災者同士の団体も発足している。
同協会によると、県外被災者の支援に取り組むボランティア団体は、神奈川や東京、静岡、愛知、和歌山、京都、岡山、福岡などに広がっている。茶話会開催や、住宅一元募集前の説明会、フリーダイヤルによる電話相談と、活動内容も多彩になっている。
一方、被災者同士の団体も、愛知や奈良、和歌山、岡山、広島、福岡、鹿児島などで発足。兵庫県内のボランティア団体などでつくるネットワーク「生活復興県民ネット」の「ふるさとキャラバン隊」が発足のきっかけになったケースもある。集まりに足を運ぶ被災者らの多くは、「関西弁で思いっきり話すのが楽しい」と言う。
1997/12/17