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(3)ジレンマ リスク背に踏み込む事業
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動かぬ民活、補う自治体

 正式には神戸商工会議所特別顧問会議、時に産業復興の「賢人会議」ともいわれる。構成は地元財界や自治体のトップ十人。座長はダイエー会長兼社長の中内功である。

 しかし、昨年は一度も開かれずに終わった。

 理由はあきらか。同会議の”専管事項”の一つ、神戸・ポートアイランド2期に計画される「大規模集客施設」のこう着にある。

 先月十六日。同会議の実務者レベルによる検討チームが招集された。通算七回目となったチーム会議のたたき台は、九七年末に示された素案。提案者は被災地の政財官から事業化の中核に「祭り上げられた」(関係者)ダイエーである。

 素案によると、七十ヘクタールの規模で遊園地や大型商業施設を整備。年間集客は三千二百万人、開業目標は二〇〇一年。だが、長引く不況と軌を一にしてダイエーは業績を悪化させる。事業の具体化は進まなかった。

 席上、神戸市側は「代替案」とするペーパーを示した。全体事業を二期に分け、遊園地から着手するなど当面の事業費を大幅に圧縮。企業の資金負担を軽減する提案と受け止められた。

 特別顧問会議メンバーはほかに川崎重工、神戸製鋼、さくら銀行、川崎製鉄など。ある出席者は「結局は疲弊する企業がどこまでカネを出せるか。ダイエーが求心力を失えばほかも腰を引く」と声を低める。

 暮れの二十四日。中内は取材に応じた。

 「神戸をどうするかという総意が大事。一企業がやることではない」

 多弁な中にも、慎重な発言に終始した。

    ◆

 「復興計画は行政中心の策定だが、民間・企業の役割が決定的に重要」

 九五年七月、国の阪神・淡路復興委員会はこう意見を示した。しかし深まる不況に企業側は、次第に復興事業との距離感を広げる。

 財界関係者が解説する。「自治体と、株主に責任を負う企業の論理の違い。この時期、本業以外の新規事業には踏み込めない」

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 足踏みする民に代わり、踏み込むのが官である。

 神戸市は二〇〇一年、いわゆる「復興博覧会」を開く。主会場と見込むのが大規模集客施設だ。

 代替案を示した同市は今後、事業主体となる第三セクターへの出資や、土地の分譲・貸与などで支援を迫られる。事実上の公的資金投入でもある。

 ポーアイ2期をめぐる資金負担の予感はまだある。復興特定事業の一つ「スーパーコンベンションセンター」。同市はPFI(民間資金による社会資本整備)を想定するが、企業側から正式な参加表明はない。

 外資企業の活動拠点「国際ビジネスサポートセンター」。これも事業主体は民間で、ともくろまれたが、落ち着いた先は市の外郭団体だった。

 不況が長引く中、地域間競争が激化する。とりわけ臨海部に集客施設を集積させる大阪との攻防。テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の開業も二〇〇一年に迫る。

 神戸市幹部が話す。「産業復興への関与は当初、インセンティブ(仕掛け)程度だったが、今はリードする時期。結果的に初期投資を自治体が負うが、復興に向けて放置はできない」

 動かない民活を自治体が補てんする。市民負担の可能性も含め、リスクと背中合わせのその姿は、被災地が陥ったジレンマに見える。(敬称略)

1999/1/13
 

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