政府に届かぬ途上の二重苦
される四月を前に、人員削減の作業が進む。
「希望退職者は約四百六十人。中には被災者もかなりいます」
昨年暮れ、二十五日。灘公共職業安定所次長の森田俊男は、同行の人事担当者から再就職の支援要請を受けた。数百人規模のリストラは最近の記憶にない。
「行き場のない求職者は滞留している。受け皿といっても果たして」。森田の実感は、兵庫県が十一日まとめた県内経済指標が示す現実とも重なる。
有効求人倍率 0・36(98年11月、過去最悪タイ)
新規求職者 2万人(同、前年同月比30%増)
リストラはさらに加速の兆しを見せる。
日銀神戸支店が年末に公表した企業短観。企業が抱く従業員の過剰感は一段と強まっていた。同支店が初めて推計した七・九月の県内失業率は全国平均より一・四ポイント高い五・六%。全国とのその差は、震災前より広がっていた。
震災と不況の複合構造を示すデータがある。
神戸新聞社が先に実施した「震災四年・被災者追跡アンケート」。震災前と同じ仕事に就いている人は六一%。「三年」時点の調査から、一〇ポイントも減った。
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被災・失業・生活再建の遅れ・の構図は予期されていた。だが、実態は想定をはるかに超えた。
「雇用環境は深刻な状況に置かれ、五万人の雇用維持を図る準備を整える」
震災二カ月後。国の阪神・淡路復興委員会の提言の一つである。だが、この数値目標に基づき、政府内で雇用問題が正面から議論された形跡はない。
県の元復興担当理事・辻寛が振り返る。「景気は緩やかに回復すると見込んでいた。被災地経済が立ち直れば雇用も安定するだろうと。そのシナリオが崩れた」
雇用悪化はいま全国的な問題となり、復興の足元を不況が掘り崩すという、被災地が直面する”二重苦”をかすませる。
震災後の雇用を支えた雇用調整助成金の特例措置は震災三年で打ち切られた。そして政府が九九年度予算案に盛り込んだ新たな雇用創出策。労働省の担当者は言う。「被災地に配慮し、事業を優先的に配分する考えは、現時点ではない」
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県は昨年夏と冬、二次にわたる経済・雇用対策を実施した。事業費約三千億円。創出、開拓、維持を含む雇用効果は五万四千人。空前の規模だ。
十二月、県は十月末現在の雇用効果を一万五千人と発表した。しかし、有効求人倍率は今も底をはう。効果を「下支え」と見るか「薄い」と見るか、評価は分かれる。
経済・雇用対策の制度疲労を指摘する声も高い。神戸大経済学部教授・中谷武は「大規模建設型の投資では限界があり、医療や社会保障など生活関連型への転換が不可欠」と語る。
みどり銀が人減らしを行う年度末。人員削減を予定した企業は多く、定年退職者らを含め、三、四万人規模の新規求職者が生じるのは確実だとされる。
雇用が減った街に、人は戻れない。被災地十市十町の人口はまだ、震災前より四万五千人少ないままだ。(敬称略)
1999/1/12