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(1)瀬戸際 体力消耗、不況追い打ち
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構造変化へ遅れる対応

 つらい報告になる。

 兵庫県内の経済苦による自殺者数、二百三十二人(九八年一・十一月、県警調べ)。九七年の二倍を優に超える。

 負債額一千万円以上の倒産件数、七百四十四件(同、東京商工リサーチ調べ)。こちらは前年同期の一・四倍。神戸市に限れば三百十四件、同、一・五倍。

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 工場はがらんとしていた。神戸市が建てた仮設工場の一画。家内労働で機械部品をつくる工場主(60)が重い口を開く。

 「たとえきょうの仕事がなくとも、これまでなら次の仕事が見えていた。しかし、今は見えん」

 家も工場も震災で燃え、運良く当たった仮設工場で仕事を再開した。災害復旧資金八百万円を借りて機械を買った。「三年あれば…」。漠然とだが希望はあった。工場の賃貸料は一平方メートルあたり五百円、月額約五万円。破格の安さだ。入居期限は五年。その間には、再起できると思っていた。

 実際、九七年末までは順調だった。ところが昨年、受注量は半分近くに激減。ふさがろうとしていた傷口が、再び開いた。

 仮設の期限はあと一年余りで切れる。借金の返済も始まる。「景気が良うならん限り(自立は)無理」と、工場主は途方に暮れる。

 長田区の下町。自動車部品の金型などをつくって三十年になる町工場の主は言う。「ずっとやで、赤字が」。直接的な被害は軽かったが、交通事情の悪化で納期が遅れた。受注は他に流れ、戻り切らないうちのこの不況。「生き延びてはいるが、体でいうと衰弱しきった状態や」

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 九八年、不況は二重苦となって被災地を覆った。兵庫の失業率は沖縄に次ぐ全国最悪の水準を低迷した。中でも、激甚被災地の疲弊ぶりは際立つ。県商工団体連合会(二万九千人)の会員廃業率。神戸市東灘・須磨六区は、九八年九・十一月で前年同期の一・四倍。悪いとされる全県平均より三割も高かった。

 「被災地の経済復興は、基礎のもろい”砂上の楼閣”的な状態にとどまることも懸念される」

 さくら総合研究所の昨年十二月の指摘。そのリポートは続けた。

 「中小製造業は震災からの回復過程で体力を消耗し、技術の高度化や新分野への進出など課題達成への取り組みが遅れた」・と。

 被災地の中小企業の実態調査にかかわる立命館大教授・二場邦彦(中小企業論)も「既存企業が構造変化にどう対応するのか。大切なその配慮が、復興計画で不十分だった」と話す。

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 取り組みがないわけではない。兵庫県、神戸市、民間の三者で九七年に発足した新産業創造研究機構。「より具体的な支援を中小企業に」と昨年四月、技術移転センターを開設した。大企業や大学が持つ技術や特許をてこに、中小の新事業展開を手助けする。「具体化への協議が十数件進んでいる。近く実施段階に入るものも出てきそう」と、川崎重工から出向したディレクター園田憲一は言う。

 しかし二場は同センターの動きに関心を示しつつも、危ぐを消せないでいる。

 「一・二年のうちに成果を上げないと、消えていく企業が出る」

 震災から四年。二場の指摘は取りも直さず、復興を果たせるか、衰退するか、今が瀬戸際だとの警鐘である。(敬称略)

1999/1/11
 

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