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(5)息子(下) 経済力つけ 迎えにいこう
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新聞の小さな記事が目にとまった。離婚女性たちの集いがあるという。調停の準備をしながらパート勤めも始めた九六年の春。

 「あの子が私の顔を忘れてしまったら」・

 息子と離れて暮らす日々に、さまざまな不安が明子さん(32)=仮名=の心をよぎる。すがるような気持ちで集いに参加した。

 体験発表した女性は、「子どもを連れ戻すにしても、まずあなたが経済力をつけないと」とアドバイスしてくれた。目がさめるような思いがした。「息子を迎えに行ける自分になろう」。そう決心した。

 すぐに、正社員で働ける職場を探し始めた。離婚調停は同年八月に始まったが、不調に終わった。一年後、裁判も棄却された。「いくら言っても夫には伝わらない」。そんな脱力感にとらわれた。ついに大阪高裁で争うことになった。

 息子の親権の話し合いが進められ、週に一度、保育所での面会が許された。ある日、息子は別れ際に明子さんの手を握ったまま離さなくなった。飛んできた夫とその場で話し合ったが決裂。息子の意思で実家に連れて帰れることになった。二年ぶりの息子との生活。その後、正式に離婚も成立した。

 正社員として雇われ、収入も安定した。近くに健在な両親もいる。「結婚の十倍はエネルギーをつかったけど、今、すごく幸せ」と笑顔を見せる。

 調停中に本を読みあさった。「女性の自立とは」「家族って何?」。震災までは考えもしなかった問題を真剣に考えた。

 離婚するときの条件に従い、月に一度、息子を連れて前夫と会う。二人の間を歩く息子は「手をつないで」と片手ずつ差し出す。「子どもなりに精いっぱい愛情表現している。たまにはこうして家族するのもいいかな」

 今春、息子は小学校に入学する。「いつか、お父さんと二人だけで会いたいと言い出す日がくるかも。寂しくなるな」。そんな思いで息子を見つめている。

(記事 青山真由美、永広祥子

=おわり=

1999/3/17
 

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