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 大半の住民が予期せぬ中で起こった阪神・淡路大震災。兵庫県内の犠牲者数約六千四百人、全半壊家屋約二十五万棟をはじめ甚大な被害となった。要因の一つに不十分な防災体制が指摘されているが、その教訓を生かすための作業が行政や大学、企業などで進められている。ライフラインを中心とした防災体制の整備、基礎となる地震のメカニズムの研究。震災後から続くさまざまな調査や対策は今、どこまで進められているのか。どのような課題が浮かび上がっているのか。震災後四年八カ月を機に被災地の状況をまとめた。

どう守るライフライン
 「利便性」と相対の面も 鉄道など各社

 震災直後から、鉄道、道路網、ガス、水道、電気などいわゆるライフラインは寸断された。完全復旧までに電気一週間、ガス、上下水道で約三カ月。鉄道の復旧には半年を要した。

 大阪・神戸を並走するJR、阪急、阪神の中で、海岸部を走る阪神電鉄は、高架橋などの柱約千本が破損。西灘、新在家、大石、石屋川の駅舎も壊滅的な打撃を受けた。復旧作業に延べ約三十万人が動員されたが、住宅の密集地を縫うように走る独特の路線が、作業の思わぬ障害となった。

 「壊れた民家が線路わきの道路に倒れ込み、機械を現場に持ち込むのに時間がかかった」と同電鉄の誉田由都子係長。

 当時、家の撤去は公費で行われていた。だが、順番を待っていては復旧が遅れてしまう。自ら撤去に乗り出すしかない。許可を得るため、社員が避難所で沿線被災者を探す日が続いた。

 「沿線の方々は快く応じてくださった。開通までに時間はかかったが、協力がなければ、さらに復旧は遅れていた」と誉田係長。

 復旧作業の一方で、同電鉄は、一九九五年から五年計画で、高架橋やトンネル内の柱の耐震補強工事に着手。九九年六月の進ちょく率は、トンネル柱などで七六%、落橋防止で六四%に達した。また、震度4以上の地震を感知した場合、三秒以内に無線を通じて運行中の電車に停止指令放送を流すシステムも配備した。

教訓生かし進む対策 コスト面が共通の課題
 震災から四年八カ月。大震災を教訓にした対策は、すべてのライフラインで進んでいる。

 鉄道各社はそれぞれ高架橋などの柱の耐震補強に乗り出したほか、JRは、東京が被災した場合を想定、新幹線などのダイヤを担当する「第二指令所」を大阪に設けた。

 大阪ガスは、二次災害防止のための供給停止ブロックを、五十五ブロックから百二十ブロックへ細分化を計画。地震に強いポリエチレン管の敷設を進める。

 上下水道でも、耐震性の高い管や継ぎ手を採用。NTTや関西電力も、通信途絶用無線網、衛星通信システムなどの整備を通し、被災しても機能が麻ひしない対策に取り組んでいる。

 しかし、各社共通の課題を抱える。安全への投資には巨額の費用がかかり、限られた予算、時間の中では整備に限界があるからだ。

 さらに、「利便性」と「震災対策」の両方を追求する難しさを感じる企業もある。阪神電鉄の場合、人身事故や交通渋滞防止のため、高架化を積極的に進めているが、予想を上回る地震で万が一にも倒れることがあれば、復旧の労力は大幅に増えてしまう。

 費用、時間、通常時と非常時のジレンマ…。ライフライン各社は今、多くの問題に直面しながら、都市の安全と向き合っている。

地震のメカニズム解明へ 活断層の規模特定
 厚い堆積層が精査阻む 活動状況は把握できず 神戸・阪神間
 神戸・阪神地域には六甲山系の造山活動で生まれた数多くの活断層があり、その上に広がる厚い堆積層(たいせきそう)が地震の被害を拡大したのではないか・。阪神・淡路大震災の発生源ともいえる活断層や地盤について、兵庫県や神戸市などは大学の研究者らとともに調査、研究を続けている。四年八カ月前に地下で何が起こったのか。少しずつ明らかになっている。

 大阪湾断層や和田岬断層、仮屋沖断層など地下深くに潜伏し、はっきりしていなかった断層の位置や規模などが新たに判明。半面、被災地を東西に走る被害の最も大きかった帯状の地域の直下に、断層は見つかっていない。これまでに県活断層調査委員会は「地震波が堆積層と表層地盤などと複合的に作用し合って起きた」とする調査結果をまとめている。

 この被害の大きさにも関係する厚い堆積層は調査でも大きなネック。岡山県境から兵庫県中央部に延びる山崎断層では震災後の調査で、千数百年・二千数百年との活動周期が判明した。ところが、神戸・阪神間では深さ最大二キロに及ぶ堆積層に阻まれ、断層を直接調査することが難しい。活動周期はもちろん、震災でどの断層が動いたのか、明らかになっていない。

 一方、堆積層自体についてはさまざまな面が見えてきた。神戸市の中央部は、山が海岸線近くまで迫る。激しい造山活動で生まれた断層が集中しているが、岩盤は厚く堆積層は薄い。西部や東部は数多くの川に運ばれた土砂が厚く積もっている。このため、中央部に比べ東、西部の被害が比較的大きかったと考えられている。逆に、東、西部では断層の真上にありながら、堆積層がクッションのように揺れを吸収したとみられる地域もある。

 同市はこれまで調査した約二千カ所の地盤のデータに住宅や上下水道などの被害を組み合わせたデータベースを作成。八月から同市中央区の「こうべまちづくりセンター」で一般公開を始めた。まだ開発途上だが、市内各地での起きる地震の揺れの強さがある程度、予測できる。

 さらに、同市は建設、不動産業者、学識経験者らで今春、地盤研究会を結成。市は「活断層が動けば、どんなメカニズムで被害が出るのか。データベースは、それを解明する有効な道具となる」とし、建築物を新設する際に判断材料として活用してもらうという。

 県内には震災の原因となった六甲・淡路活断層帯のほか、山崎断層や有馬高槻構造線、中央構造線などの活断層が走る。克明なデータをもとに県は、これらの断層帯で起きる内陸型地震の被害想定をコンピューターシミュレーションした。

 死者九千五百~一万二千人、避難者四十万人…。ショッキングな数字が並ぶ。予測された被害を少しでも減らすために、何をすればいいのか。何ができるのか。大震災を生き残った者にとって、その答えを出すのは使命ともいえる。

シナリオが見えてきた
 田中泰雄氏 神戸大学都市安全研究センター助教授

 活断層についての研究が進み、地盤についてもかなり分かってきた。地震の発生から、揺れがどのように伝わって被害を生んだのか。そのシナリオが徐々に見えてきた感じだ。

 神戸・阪神地域では、震災で一つの「結果」がでている。より狭い範囲ごとに、シナリオに基づく理論的な予測をいかに実際の結果に近づけ、精度をあげていくかが、今後の大きな研究テーマになる。

 研究成果は今後の防災に大きく役立つはずだ。かつては、地域全体の被害を想定し、一律に建物の耐震構造を強化するという考え方だった。ところが、最も強い揺れに全体を合わせるのは、経済的にみても無理がある。

 だが、その地点の揺れが予測できれば、それに合わせて建物の強度を決めることができる。建物の種類によっては、「壊れない」ではなく「被害を一定以内にとどめる」というような強度の決定もできるようになるだろう。国も、それらの状況を踏まえて、よく事情を知っている地元の裁量で耐震構造にある程度のメリハリをつけることを認めるようになってきた。

 研究を進める一方で、情報の公開は欠かせない。アメリカなど先進地では、市民がいかに地震について理解しているか、が重視されている。地域で地震が起こる可能性の程度はもちろんとして、より具体的にどこに活断層があり、自分が住む土地の地盤の状態や危険性などが広くPRされ、不動産の取引にも利用される。そんな意味で神戸市が地盤情報を公開しているのは、大きく評価できる。

 今後は研究を進める一方で、いかに市民に分かりやすくその成果を紹介するか、が研究者側の課題。市民の側も震災の記憶を風化させず、関心を持ち続けるようにしてほしい。

1999/9/17
 

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