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(5)県と市の連携強化を 新湊川が”備え”を再び問うた
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 今年六月、神戸市兵庫区の新湊川。集中豪雨による避難勧告の直後に水防柵(すいぼうさく)が倒壊。濁流は、商店のシャッターをへし曲げる勢いで町を襲った。昨年秋と全く同じ水害だった。

 同じ場所で、同じ災害をなぜ繰り返すのか。震災で学んだ危機管理はどうなったのか。現場に向かうたび、疑問がついて回った。

 原因として、河川改修工事をしていた兵庫県は、二〇六ミリという予想を超えるこの日の雨量を挙げた。昨秋の災害時を上回る流量があったと強調した。

 「予想を上回る…」。その言葉を聞くと、震災直後を思い出す。未曾有(みぞう)の大地震、予想を超えた揺れ。あの時と同じ言葉だった。

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 兵庫県は、一九九五年九月から新湊川の川幅拡張工事を進めている。豪雨は、工事中の狭い川を襲い、水位はあっと言う間に上昇した。六月の水害は、わずか十分間に一メートル。昨秋の水害は、二十分間で二・八メートル。驚異的な増え方だった。

 震災を教訓に、神戸市は新防災システムを構築。市庁舎八階の防災情報センターのパソコン画面には、各河川の水位情報が十分間隔で入っていた。が、あまりの速さに「十分おきでは間に合わなかった」という声もある。

 「なぜ、被害を食い止められなかったのか」。地元住民ら約三百人は被害者の会を結成し、行政の責任を追及している。

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 兵庫県は、専門家による原因調査委員会を立ち上げ、現場調査を重ねた。その最終報告が二十二日、県庁で発表された。委員長の中川博次・京大名誉教授は「集中豪雨により、河道の能力を大きく超える流出量があった…」と説明した。そこには、行政の責任を問う文言はなかった。

 しかし、住民の不満は消えない。水防柵を補強する土のう積みが遅れていたからだ。その原因をただすため、県と市を訪ねた時のことだった。

 市は「溢水(いっすい)個所は河川工事中だったので県の責任の範ちゅう」とし、県に行くと「水防管理者は市だ」といわれた。住民には、責任のなすり合いをしているように見えた。

 「一体、責任はどこに」「県と市に緊密な連携があれば事態は変わっていた」

 「予想を超える」以前の問題として、住民は行政側の備えの不十分さ、油断を感じる。調査委もこの点を重視し、安全対策として「県と市の連携を強化させ、住民参加型の防災をめざすべき」と提言した。

 ある地元県議は「被害に見合うような災害見舞金を出せないか、と県に話を持ち掛けたが、だめだった」と話した。自然災害に遭った者は自分に何の責任もないのに、救われない。「震災後、公的支援で味わった同じ行政の壁を感じる」

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 集中豪雨で、川の水位が急激に上昇、はんらんする都市型水害は近年、各地で起きている。

 六月の新湊川と同じ日、福岡市では、ビルの地下施設が水没し、飲食店の女性従業員が死亡。翌月には、東京都内のビル地下室が浸水し、男性が亡くなった。

 建設省の河川審議会は、地球規模での気候変動に伴い、集中豪雨の多発傾向が見られるという。担当者は「コンクリート化した都市では、洪水被害の可能性が高まっている」と話した。

 新湊川水害で浮き彫りになった災害への対応。震災から、まだ五年もたっていない。

1999/9/23
 

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