兵庫県内では阪神・淡路大震災をきっかけに公共建築物の耐震補強が始まったが、財政難の影響を受けて進行状況ははかばかしくない。補強の対象となるのは、現在の耐震基準となった一九八一年以前の建築物だが、そのうち実施されたのは一、二割で、「補強待ち」の公共建築物が全体の半数程度を占めるとみられる。各施設の担当部署を超えた全庁的な現状把握と耐震化推進の取り組みが望まれている。(宮沢之祐)
■震災後の事業
「お恥ずかしいが、震災前には補強という考えはなかった」
兵庫県防災拠点整備室の担当者が明かす。全国的にも東静岡や神奈川を除けば耐震補強への関心は薄かった。
しかし、大震災で八一年以前の建築物のもろさがあらわになった。県有施設で「中破」以上の被害を受けた割合を建設時期別で見ると、六九年以前は約32%、七〇・八一年は約20%に上るが、八二年以降ではゼロだった。
国は震災後、公立小中学校の耐震補強に半額を補助するようになった。ただし他施設には起債が認められた程度。それもあってか、警察署でさえ八一年以前に建った兵庫県内二十七署のうち補強済みは四署だけだ。
補強には、まず耐震診断が必要となる。その診断さえ済んでいない建築物が少なくない。
神戸市は九五年から十年計画で学校を除く公共建築物八十五施設の診断を目指す。そのうち診断済みは四十八施設だ。
■災害対策施設を優先
兵庫県は震災後、地域防災計画を改め、災害対策に重要な施設や避難所の耐震診断、補強を優先させることにした。二〇〇〇年からは、防災拠点整備室が警察、病院、総合庁舎、県営住宅、文教施設などの各担当者に事情を聴き調整している。
ただし同整備室が各施設の詳細を把握しているわけではなく、県有施設全体での耐震化率は分からない。まして市町の公共建築物の現状ははっきりしない。
県内の避難所の耐震化率はどれぐらいなのか。その多くを占める学校に関する数字はあっても、避難所という枠組みでの全容は分からない。
■被災地の使命
岡田恒男・芝浦工業大教授は九九年、兵庫県の震災対策国際総合検証事業に耐震補強の報告を寄せた。都道府県と兵庫県内の市町すべてにアンケート調査をしたが、耐震化事業を総括する部署がはっきりせず、全庁的なデータがない自治体が少なくなかったという。
「施設管理者から耐震補強の要望が出ることは少なく、部局を超えた推進化計画を立てることが大切になる。現状や進行具合の情報を一元化して計画を立て、事業推進にあたる部署を設けることが必要ではないか」
岡田教授は「耐震補強を行う必要性を全国、世界に発信することが被災地の最も重要な使命」と指摘している。
2002/6/5