阪神・淡路大震災の犠牲者の死因は家屋倒壊が88%を占めた。南海地震は三十年以内に40%の確立で発生するといわれ、悲劇の再発を防ぐ取り組みが急がれる。耐震基準が現在より緩かった一九八一年以前の住宅の約八割は「危険」をはらんでいるとの見方もある。一戸建て住宅の耐震化をどう進めればよいのか。現状と課題を検証する。(宮沢之祐)
■無料診断 今年限り
対策の最初のステップは耐震診断だ。兵庫県には八一年五月以前着工の住宅を対象にした公的な「無料耐震診断」の制度がある。今のところ今年度で打ち切られる予定。
同制度は国、県、市町とが協力して兵庫県建築士事務所協会の診断員を派遣する。診断のポイントは、壁の割合や配置、建物の形のバランスなど。四段階の判定と助言などの報告書が所有者に届く。
県内では二〇〇〇・〇一年度に一戸建て木造住宅約八千戸が診断された。その判定結果では、部分的な倒壊が予想される「やや危険」と、倒壊の恐れがある「危険」を合わせると85%にも達した=グラフ。
県内の旧耐震基準の住宅は正確なデータはないものの約八十万戸ともいわれる。兵庫県県建築指導課は「診断結果から見ると、その八割程度が耐震改修が望ましい状況ではないか。まず耐震診断を」と呼びかける。
■今年から利子補給
無料診断を受けた人に、兵庫県が昨年末実施したアンケートでは、耐震改修について「今のままでよい」が回答者の39%になった。耐震工事を不要と考える理由には(1)特に困っていない(17%)(2)特に必要と思わない(12%)(3)資金が都合できない(11%)(4)補助制度があれば行う(7%)・などが挙がった。
耐震改修への公的支援としては、県が工事の借入金への利子補給制度を今年度から設けた。ただし壁を増やし、筋交いを入れるような改修は数百万円かかる。工事件数が飛躍的に増えるとは考えにくいのが現状だ。
築二十年以上の住宅に住むのは高齢者が多く、結果として高額の投資を避ける傾向が強いとの指摘もある。
兵庫県建築士事務所協会神戸支部では「地震で少々傾いても、死者を出さないような耐震改修を重視したい」として、金具や合板を使った簡便な補強メニューの作成にとりかかっている。
■社会的責任の自覚を
改修工事費を助成する自治体も全国にはある。静岡県が耐震診断で「危険」とされた住宅を「一応安全」に引き上げる工事に一律三十万円の助成を始めた。
助成は横浜市が最も手厚い。「危険」と判定された住宅の改修費を所得に応じて補助し、六百万円までの工事で最大90%を支給する。三年間で約二百四十件の申請があった。無利子融資制度もある。
担当者は「阪神・淡路大震災を教訓にした制度。防災のまちづくりの観点でも必要性がある」と説明する。住宅の倒壊は圧死につながるのはもちろん、道路をふさいで救援を阻んだり、出火率を高めたりもするからだ。
防災都市計画研究所の中村八郎所長は「家を持つ人は倒壊に備える社会的責任も負う」と個人の自覚を促す。同時に「運命共同体とならざるを得ない地域社会での耐震化の取り組みと、行政の支援も不可欠になる」と指摘している。
2002/7/3