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(1)表と裏 老舗息切れ、変わる街
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 「この度、閉店させていただくことになりました」

 神戸・元町商店街。師走に張られた紙は周辺の商店主らにショックを与えた。大正時代に創業の店。一カ月余り前にも明治創業の時計店がシャッターを下ろした。

 元町の地名が付いて来年で百三十周年。ミナト神戸の歴史とともにあった老舗(しにせ)が息切れしている。

 「どん底の底が割れている」。商店街で昨年に実施したアンケートでは、回答者の七割近くが、ここ二、三年の売り上げが減少したと答えた。

 神戸の玄関口にある三宮センター街。二丁目商店街振興組合の久利計一理事長(55)は「頑張らないといけない同世代が辞めていく」とため息をつく。戦後、焼け野原から立ち上がった創業者の後継者たちだ。

 震災で大きな被害を受けたセンター街。「三年間、頑張ろう」が合言葉だった。それから復興していくはずが、借金返済の重みばかりが増す。

 店を貸して家主に転じる商店主も目立つ。その後は、携帯電話店やドラッグストア、ファストフード店などで埋まっていく。

 「ここは地元だけでなく、遠方からの客で成り立っている。神戸にしかないものがあるからだ。そんな店がなくなれば、来る必要もない」

    ◆

 「氷山の一角です」。企業の倒産情報を扱う東京商工リサーチ神戸支店の亀井豊情報課長は念を押した。

 神戸、阪神、淡路地区の企業倒産件数=表=には、中小零細企業の自主廃業などは入っていない。実際の破たんはデータをはるかに上回る。

 震災直後、緊急融資と復旧・復興需要が倒産を回避させた。二〇〇二年は前年秋の兵庫県の低利融資が当面の資金繰りをやや支えた。しかし、「私的整理や自主廃業が圧倒的に多く、消滅する会社は多い」という。

 県信用保証協会によると、震災直後の緊急災害復旧融資を受けた約二万二千社のうち、半数は数年後、別の公的融資を併用し、借金を重ねた。「不況の長期化で、返済が進んでいない」

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 表通りから老舗が消えていくのと対照的に、裏通りが光を放ちつつある。トアウエストをはじめ、海岸通、栄町通界わいには、カフェや雑貨、家具店が点在し、遠くからも若者が訪れる。

 三宮の東側、磯上公園周辺にもそんな店が集まり始めた。「人の流れがここに向きつつある」。ビルや古倉庫などへのテナント誘致を手がける建隆エステートの頴川欽和取締役は話す。

 被災したオフィスビルの復旧に追われたが、二年前からミナト神戸の“遺産”ともいえる古倉庫などの活用に取り組む。

 震災後、表通りで「神戸の顔」の苦戦が続く。一方、裏通りが活気を帯びてきた。それが新たな神戸らしさを生むのか・。

 まだ復興途上といわれる中で、街の風景は変わりつつある。

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 阪神・淡路大震災から八年。加速する不況に、被災地の苦悩は増す。復興への新たな課題も浮かび上がる。さまざまなデータが、厳しい現状を映し出す。八年の軌跡をたどりながら、地域の今後を考えたい。

2003/1/13

 

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