昨年十一月。神戸市西区の進藤智登勢さん(38)はようやく、「被災者自立支援金」の百万円を受け取った。
両親と暮らしていた同市須磨区の自宅は、震災で全焼した。父母は助からず、自分だけが残された。お金どころか、下着一枚さえなかった。
翌年に結婚。その二年後、阪神・淡路大震災復興基金が自立支援金の支給を始めた。が、電話をした窓口から返ってきたのは「世帯主でないと支給できない」という信じがたい一言だった。
その条件が昨年、一転して見直された。震災後に結婚した被災女性が、支援金の支給を求めた訴訟で勝訴したからだ。
「震災直後の一番苦しい時、生活を支えてくれたのは、父の知人らからの香典だった。今やっと…という気持ち」
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自立支援金の制度を可能にしたのは、一九九八年の「被災者生活再建支援法」成立だった。
同法は全壊世帯などに最高百万円を支給する。阪神・淡路に直接は適用されていないが、被災地からの声で実現し、「義援金頼み」の日本の被災者支援を変える大きな節目となった。
しかし、少ない支給額や所得制限。数々の「不平等」も指摘される。
施行後、法が適用されたのは十災害。四道県と四十七市町村に上るが、被災地すべてが対象ではない。適用は(1)全壊十世帯以上の市町村、または(2)全壊百世帯以上の都道府県・に限られる。
広島県を中心とした芸予地震では、適用は呉市だけ。周辺七市町には、県と市町が財源を出す独自の制度で対応した。
「同一災害なら等しく適用されるように、見直してほしい」と広島県。同じ事態は、鳥取県西部地震などでも起きた。
東京都三宅村の担当者は「購入品目が制限されたり、領収書が必要になったりする点が、使いづらい」と話す。
支援法は今年、付帯決議にある「五年後の見直し」の時期を迎える。
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「生活再建支援」と並び、阪神・淡路の被災者が強く望んだ「住宅再建支援」の制度は、今なお実現していない。
兵庫県は全国知事会に「共済と公費」による制度を提案、超党派の議員の会は「全額公費」を検討するが、鴻池祥肇・防災担当相(参院兵庫選挙区)は「私有財産に公費を充てるのは公平性に問題がある」と、実現に消極的だ。
そんな現状に一石を投じるかのように、井戸敏三・兵庫県知事は今月、「県独自での制度化に向け、研究会を発足させる」と明言。震災十年をめどに、共済を基本とした制度の実現を目指す。
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一月十一日、神戸。
公的支援の拡充を求める市民団体の集会で、作家の小田実さんが訴えた。「なぜ税金を払うか。天災を人災に変えないためだ」
体験を語る被災者の声は涙で詰まった。「私たちが声を上げないと。あきらめないでください」
あの日から八年。被災地の声はまだ、この国で生かされてはいない。
(社会部・磯辺 康子、新開 真理、経済部・宮田 一裕)
=おわり=
2003/1/17