復興住宅アンケート
今の生活で不安に感じることの複数回答では、五割強が「給与、年金、蓄え」「自分や家族の健康」を挙げ、「将来の介護」も半数に迫った。「不安はない」は一割しかなかった。
特に不安に感じることを尋ねると、「給与、年金、蓄え」が33・7%とやはり最多。世帯主の年齢別に見ても、八十一歳以上は「健康」を挙げる人が一番多かったが、他の各年代はお金について最も不安を感じている。
回答者の七割が六十歳以上で、八割が世帯年収二百万円未満とあって、悩みは切実といえる。
自由回答
鉄のドアに孤独感
鉄のドアで外部と遮断されるということは心理的に孤独感が発生、内部にとじこもりがちになる。仮設住宅は長屋感覚で付き合いがあり良かった。(男性、70歳)
都心まで交通費高く
北区から中央区まで通院するのが交通費も高く遠いので疲れる。行ける間は運動になると思って通っている。環境も良く、空気が良いので92歳の姉はここが良いと考えている。家賃も安くしてもらい感謝している。(女性、79歳)
隣に住む人はだれ
コンクリートの中で居住したことはなかった。隣にどんな人が入居しているのかまったく分からない。治安も相当悪く、常に火のついたタバコまでぽい捨てする。入居して丸五年、いまだに嫌で仕方がない。(男性、71歳)
前向きに生きたい
震災さえなかったらと今でもよく思う。震災で人生が変わった。いや、狂ったと思う。でも振り返ってばかりはだめと前向きの姿勢で毎日を送っていこうと思っている。(女性、60歳)
通院と買い物で疲れ
主人は八十一歳。震災で十六時間ぶりに救急隊員に助けてもらったが今も通院している。私は七十七歳。毎日が通院と買い物で疲れる。(女性、77歳)
神戸大学 塩崎賢明教授
こまやかなケア体制が必要
調査結果によると、集会所を利用したり、外出したりするなど元気で積極的な人がいる一方で、震災前の生活を取り戻せない人がかなりいることが分かる。例えば、震災前と現在の団地のどちらが良いかを聞いた設問では、震災前と今がほぼ同じ。どちらともいえないも25・5%いる。人づきあいが減り、寂しく感じたり、無関心になったりしている。人間関係を含めた社会環境や地域環境が失われたことが大きな影響を与えている。
三年前に研究室で一カ所を除き同じ団地を対象に調査したが、傾向は変わらなかった。時間がたっても回復は難しいということだろう。
必要な施策は二種類ある。一つはよりこまやかなケア体制の整備や友達づくりの支援だ。見守りの質も問われている。もう一つは、街中や元住んでいた地域への住み替えの仕掛けづくり。復興住宅や借り上げ民間住宅への転居を考えられないか。
入居者は高齢者、単身者、低所得層が集中しており、震災から十年たっても何も変わらない。根本的に考え直し、多様な対策を進めなければ解決しない。
新潟県中越地震の被災地では、集落に配慮し、仮設住宅への入居も進められた。今後、災害の際には、都会でもコミュニティーを大切にした再建を考えていくことが重要だ。
回答者プロフィール
年齢をみると七十歳代がトップ。家族構成では単身が六割を占める。職業では無職が最多、79・3%が世帯年収二百万円未満となっている。入居後に亡くなった家族がいる世帯は11・6%で、震災で死亡した家族がいる世帯(7・6%)よりも多い。
震災前の住まいは共同住宅56・3%、一戸建て24・2%、長屋17・0%。民間借家が66・6%で最も多く、「土地所有、持ち家」(11・9%)「借地持ち家」(11・0%)と続く。土地、家屋を所有していなかった人が八割を占める。
調査の概要
復興住宅アンケート調査は、震災10年を前に、暮らしの課題を探るため、神戸新聞と神戸大学工学部の塩崎賢明教授(都市計画)研究室が実施。2004年9月10日から20日にかけて神戸市内の31団地・1639世帯に用紙を配布、1004世帯(回収率61.3%)から回答を得た。
団地は、同市中央区のHAT神戸脇の浜など大規模5カ所、中規模6カ所、小規模20カ所。
過去には、1998年に合同で、2001年に同研究室単独で、それぞれアンケート調査を実施している。
2004/12/16