さら地になった市場の一角。アーケードだけが残っていた。その下を、夏の日差しを避ける買い物客がぽつりぽつり。
「営業中。頑張っています」の看板が目を引く。店主たちは心意気で、なじみ客を精いっぱいつなぎ留めていた。
神戸市兵庫区の稲荷市場。新開地に程近い約二百メートルの商店街は、大正時代から市内屈指の市場としてにぎわった。一時は百軒近い店があったという。
活気の源は、川崎重工やその下請けの造船所。造船業の衰退とともに客足が遠のいた。
「それでも、震災前はまだよかった」と鮮魚店の二代目大西角重さん(70)が振り返った。
震災で約八十の店舗は半減した。現在はさらに減って二十八。空き店舗が目立つ。蓄えを切り崩して店を再建したものの、途方に暮れる日々。
「将来を考えると、あとを継いでくれなんて言えない」と漬物店の井上俊一郎さん(66)。
別の店主が静かに語った。「ここのように一歩路地に入った神戸を見てほしい。これで復興できたと、本当にいえますか」
言葉が頭を離れない。
(写真部 三浦拓也)=おわり=
2004/8/7