黄金色の稲穂が秋風に揺れていた。手塩にかけて育てた住民らの笑顔が一段とまぶしかった。
神戸市灘区の大石南仮設住宅。小さな田んぼが並んでいた。土を入れたバケツが四百個。「部屋にこもりがちなお年寄りの交流の場に」。地域のボランティアらの発案だった。
春、バケツに苗を植えた。土中の空気の循環を良くするため定期的に土をかき混ぜ、夏場は絶えず水を与える。
稲は思わぬ効果をもたらした。夏はカエルの合唱。秋は赤とんぼが乱舞し、虫の音が響いた。
自然と田んぼの周りに住民が集った。長屋のような、人と人のつながりを感じさせる光景。住民たちは仮設を出て、復興住宅へ移っていった。そこでは、「ここは寂しい。仮設に帰りたい」という声をよく聞いた。
だが今は、つらい震災当時の記憶を早く忘れたい、と話す人が少なくない。
仮設住宅の跡地。地元のまちづくり協議会が市から借り受け、イベントを催している。老人会と子どもたちがサツマイモを植えた。時を経ても人が集う場であることは変わらない。
畑を覆う葉っぱを眺めていると、心が和んだ。(写真部 中西大二)
2004/10/15