一九九五年秋、グリーンスタジアム神戸は連日超満員となった。外野通路にも立ち見の人垣ができ、木によじ登って観戦する人もいた。
オリックスブルーウェーブのリーグ制覇が目前に迫る。イチロー、長谷川、田口。選手はユニホームの右そでに「がんばろう KOBE」のワッペンを縫い付けていた。
「被災者のためにできることは、全力のいいプレーを見てもらうこと」。選手の思いがワッペンに込められていた。
震災で、自宅が全半壊した選手がいた。キャンプインさえ危ぶまれる中、チームは始動した。シーズン当初はスタンドに空席が目立った。快進撃がファンを呼び込む。「優勝を復興の励みに」。熱い思いが伝播(でんぱ)し、大きな波となった。
右そでのワッペン。四年後に消えた。あれから十シーズン。来季から「ブルーウェーブ」の名も消える。そう決まった夜、ライトスタンドであのユニホームをまとうファンを見つけた。
「これが最後の試合になるかも」。その男性は名残惜しそうに言った。
「私も被災者です。あの時の気持ちは忘れられへん」。さらば、ブルーウェーブ。(写真部 岡本好太郎)
2004/10/18