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(2)道の向こう かつての暮らしがそこに
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マンション建設工事が進む東山コーポ跡地=神戸市兵庫区
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マンション建設工事が進む東山コーポ跡地=神戸市兵庫区

マンション建設工事が進む東山コーポ跡地=神戸市兵庫区

マンション建設工事が進む東山コーポ跡地=神戸市兵庫区

 震災から十二年の間に、東山コーポ(神戸市兵庫区東山町)の周辺には新しい分譲マンションが次々に建った。

 バス道を隔てた向かい側のマンションは、二〇〇一年に完成した。東山コーポの管理組合副理事長を務めた上杉丁三さん(68)は、そこに住む。震災後の約六年、近くの賃貸住宅などでコーポの再建を待った。しかし、建て替えか補修かで割れた住民間の裁判が長引き、戻ることは断念した。

 「先が見えんかったから」。新たに組んだローンは三十五年。これも楽な選択ではない。

    ◆

 上杉さんは東山コーポに近い商店街で婦人用品店を営む。

 震災では店も半壊した。一九九八年と九九年には、近くを流れる新湊川のはんらんで二年連続の水害に見舞われた。二回とも商品はほぼ全滅。世間でいう景気回復も、実感にはほど遠い。

 東山コーポの裁判は〇一年一月、「建て替え決議は無効」との判決が出た。管理組合の決議は「一戸=一票」。しかし判決は、複数戸を所有する人の権利を一票とした場合、建て替えに必要な「五分の四の賛成」に届かない-とした。議論は振り出しに戻った。

 「マンション、どうなってるの?」。客にそう聞かれても返答に窮した。補修派の住民との話し合いは平行線どころか、より離れていくように感じた。副理事長という立場もあり、「外壁がはがれ落ちてけが人でも出たら」と気をもんだ。

 「もう一回地震が来て完全につぶれてくれたら、と思ったことさえあった」

 九割近い賛成で再び建て替えを決議したのは、〇四年十一月。その後も、補修派住民の住戸買い取りをめぐる調停が一年間続いた。

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 上杉さんが住むマンションには、ほかにも東山コーポの元住民がいる。

 中藤托治さん(79)、康子さん(78)。裁判では、補修を主張して管理組合を訴えた立場だった。

 「しっかりした建物だったし、補修なら資金の負担も少ない」。多くの人が住み続けるには、それが最良の策と思った。

 震災の翌年、コーポから神戸市北区の賃貸住宅に移った。しかし、住み慣れた地域への愛着は募る一方だった。新聞の折り込みで今のマンションの広告を見つけ、退職金と貯蓄をはたいて購入した。

 全九十戸のコーポの裁判で、補修を主張したのは十一人。判決は「建て替え決議無効」で確定したが、数でいえば補修での合意も難しかった。「意見を変えるのは、心苦しかったけれど…」。急速に復興していく街の風景にも気持ちを動かされ、建て替えに賛成した。

 夫婦も、東山コーポには戻らない。ただ、転勤族だった娘夫婦が「再建後のマンションに入る」と言ってくれた。三十年近く暮らした「古里」とのつながりが、二人を支える。

 あの一月十七日の朝まで、それぞれの日常があった道の向こう側。震災後の意見の相違はあったが、そこに息づく思い出を胸に今、ともに再建工事を見守る。

2007/1/15
 

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