ヘリコプターの爆音が山あいに響いた。昨年六月、岩手・宮城内陸地震で道路が寸断され、孤立した岩手、宮城県境の集落。全国から到着したヘリが、住民を次々に救助する。
発生当日、自衛隊や消防などから出動した航空機は、国内の自然災害で最多の計百二機に上った。阪神・淡路大震災の約八十機を超え、国内の自然災害では最多の規模だった。孤立した十二集落約七百三十人の救助は、発生三日目に完了した。
しかし、人と防災未来センター(神戸市中央区)の河田恵昭センター長は「今回は被害が局地的だった。マグニチュード(M)8級の東海、東南海、南海地震が同時に起これば、三千集落以上が孤立する」と警告する。ヘリで即応できる数ではない。
東南海、南海地震発生時の政府・中央防災会議の活動計画でも、国と自治体が派遣する最大約五百機の航空機と十二万二千人の部隊は、静岡、愛知、和歌山、高知県など被害の大きい太平洋沿岸に集中させざるを得ない。兵庫県には自衛隊の三百人。足らずは県内での独自対応が求められる。
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集落孤立をもたらす土砂災害対策には膨大な費用がかかる。兵庫県は今の工事ペースで県内のすべての危険個所を解消するには、二百八十年間が必要と試算。災害時に孤立の恐れがある四百六集落について、近隣集落までの距離や高齢化率などを調べ、支援を優先すべき集落の選定を進めている。
そんな集落の一つで、紀淡海峡を臨む洲本市南東部の畑田組。海と山に挟まれた県道だけで市街地と結ばれる。同市は南海地震で最大震度6弱が予測される。県道が地震で寸断されかねない。
人口は十二世帯二十一人。高齢化率は60%に達する。観光施設を経営する延原利和さん(54)は「二〇〇四年の大雨や台風で施設が浸水し、車が流された上、土砂崩れで集落が一時孤立した。しかし、集落だけの力で、耐震性のある避難所を確保し、食料や医薬品を備蓄するのは難しい」と漏らす。
同市は〇九年度、孤立の恐れがある集落への衛星携帯電話の配備を検討。しかし、南海地震では市内も広範に被害が予想される上、畑田組には、救援ヘリが離着陸できる場所さえない。
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国や自治体による公助には限界がある。また、大規模災害では、被災地内でボランティアの人数や救援物資の量に偏りが生じる。
阪神・淡路大震災で、その空白を埋めたのは、日常的な交流があった他地域からの救援だった。
死者二百人を超えた神戸市東灘区の魚崎地区。情報が途絶する中、発生翌日には鳥取県江府町の住民から大量のおにぎり、水、毛布が届いた。戦時中の学童疎開が縁で、震災前から観光や産直販売を通じ交流していたためだ。二〇〇〇年の鳥取県西部地震では、被害を受けた江府町に、逆に魚崎の住民らが駆け付けた。
新潟大学災害復興科学センターの福留邦洋特任准教授は「顔の見える地域間交流が、いざというときの“応援団”づくりにつながる」と強調する。
都市と農漁村。危機管理の視点からも、関係強化が求められている。(石崎勝伸)
2009/1/14