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(5)住居の安全 08年11月長期優良住宅促進法成立 問われる自助努力任せ
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 壁紙をめくると、カビが生え、水分を含んで腐りきった部材が姿を現した。柱や筋交いにはシロアリが巣くい、基礎部分はすっかり無くなっていた。目を覆うばかりのありさまだったという。

 兵庫県内で年間千件以上の住宅リフォームを手掛ける工務店「山弘」(兵庫県宍粟市)が、昨年十一月に手掛けた物件は、建築基準法が改正された一九八一年以降の「新耐震」と呼ばれる基準を適用した建物だった。しかし、長い時間を経て、耐震性は明らかに損なわれていた。同社の三渡真介事業部長は「手掛けるリフォーム物件の約三割は新耐震。しかし、その一割に当たる年間三十-五十件が、こうした物件だ」と明かす。

 「建てたときに耐震基準をクリアしていても、二十年も経過すれば耐震性が失われている住宅は多い。安全な住まいに必要なのは耐久性だ」

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 伝統的な木造住宅を売り物とする同社は、国土交通省が募集した「二百年住宅」モデル事業に県内で唯一採択された。

 二百年住宅は、世代を超えて住める住宅として政府が普及を目指す。昨年十一月、長期優良住宅普及促進法が成立。耐震性を含めた耐久性と、間取り変更やメンテナンスが容易な構造などの要件を満たせば認定される。併せて、緊急経済対策の一環で、住宅ローン減税の上積みも打ち出された。

 戦後の住宅政策は住宅難解消を目的とした大量供給が中心だった。しかし、阪神・淡路大震災を機に、耐震性など「住宅の質」がクローズアップされる。二百年住宅について、金子一義国交相は「『量から質へ』と住宅供給の大きな転換点となる」と強調。人口減少の本格化を控え、良質な中古住宅市場の形成も目指すという。

 ただ、住宅政策を専門とする平山洋介神戸大大学院教授は「三十年しか持たない日本の住宅寿命を延ばすことには意味があるが、今現在、本当に危ない家に住んでいる人には何の支援もない。阪神・淡路の教訓は耐震性のない家を無くすことだったはずだが」と疑問を投げかける。

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 住宅の耐震性強化をめぐっては、県が二〇〇七年三月、耐震改修促進計画を策定した。それによると、〇三年時点で、県内の住宅総数二百五万戸に対し耐震化率は78%。旧耐震八十万戸のうち四十五万戸を耐震性のない危険な住宅とみている。これを一五年には六万五千戸に減らし、耐震化率97%にするとの目標に掲げる。

 今後、建て替えなどで自然に減ると想定する十八万戸を除けば、十年間で二十一万戸を耐震補修しなければ達成できない。

 県は旧耐震基準住宅の改修などに最大八十万円を助成する補助制度を設けているが、その予算は年間二億円。計画戸数は同四百戸にすぎない。耐震補修の目標戸数とは懸け離れた数字だ。

 これについて、県の担当者は「制度は(耐震補修の数値目標達成を直接目指しているわけではなく)あくまでも住民の関心を高めるのが目的」と説明する。一方、工務店関係者は「数百万円払って、耐震化という目に見えない商品を買う人はいない」と口をそろえる。

 施策の根底にある行政の考え方は「耐震化は住民の自助努力」。だが、住民の意識の高まりを待つだけで、住まいの安全は本当に確保できるのか。大震災は住宅政策のありようも問うている。(畑野士朗)

=おわり=

2009/1/16
 

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