「悲しい写真やのに、懐かしいね」。小谷さかゑさん(92)は、13年前の写真を手に言った。
神戸市灘区で阪神・淡路大震災に遭った。直後、夫の亀市さんと岡山県邑久町(現瀬戸内市)の町営住宅に避難した。神戸に戻るすべのない小谷さんを現地に訪ねたのは1997年はじめだった。
取材の直前、小谷さんは夫を亡くした。「頑張って」。小谷さんがさびしそうに見えたのか、写真を撮るとき、近くの住民が声を掛けてきた。
「神戸に帰りたい」。小谷さんは97年、東灘区の復興公営住宅への入居がかなう。同年、灘区の老人ホームへ、そして昨年、近くの介護の手厚い老人ホームへ移った。
「励まされてうれしかった。記事を読んだ人から手紙をもらい、文通を続けている人もいる」。懸命に生きてきた15年。流した涙には悲しみ、そして喜びが詰まる。
小谷さん、どうか、いつまでもお元気で。(三津山朋彦)
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震災から15年。傷ついた人、新たな一歩を踏み出した人…。それぞれの「物語」を追った。
2010/1/14