晴れ姿を披露できなかった。大切な婚礼写真が焼けてしまった。
阪神・淡路大震災から10年の2005年。婚礼の企画や着付け教室を手がける中田喜子さん(66)は、そんな経験をした夫婦を募り、2組を無償で着付け、記念写真を撮った。15年となる今年も同様の企画を練る。
神戸市垂水区の自宅は震災で半壊した。約25年の講師勤務を経て、独立を決意した矢先だった。病気療養中だった義父は薬剤不足などで転院を余儀なくされ、震災翌月に亡くなった。同5月、義母も病気で他界した。
相次いだ悲しみに夢をあきらめかけた。が、長年、3人の子育てを手伝い、家庭を支えてくれた義母の厚意を無駄にしたくなかった。秋には着付け教室を開いた。
20代、血液の難病と闘い、輸血で命をつないだこともある。「助けてくれた人がいたから、乗り越えられた。自分にできる恩返しを」。着物にそっと手を伸ばした。(峰大二郎)
2010/1/15