福井・若狭湾の関西電力高浜原発から約40キロに一部が入る豊岡市。昨年6月の定例市議会で市長の中貝宗治(57)が「想定外」への持論を語った。
「(災害が)起こりうることが想像できても、私たち関係者は制度や仕組みを組み立てるときの前提として採用してこなかった。効率性を重視し、100年確率、200年確率に備えることのばかばかしさが公然と語られてきた。その不明さを、恥ずべきだ」
防災への新たな決意表明にも聞こえる。だが市議の一人が原発事故の避難対策を問うと、防災監の森合基(もりあい もとい)(56)の答弁は型通りのものだった。
「福井県に確認したところ、(原発の半径8~10キロを避難計画策定区域とする)国の指針以上の被害想定はない。兵庫県の防災計画でも記載がない。本市においても、国が今後見直せば検討したい」
「危機感がないわけではないが…」と森合が漏らす。それは、財源も権限も持たない地方自治体の歯がゆさ。避難計画を独自に模索していた福島県南相馬市とも共通する。(※写真=東京電力福島第1原発の北方20キロ地点で「警戒区域」への立ち入りを禁止する警察官。震災前に想定された避難区域は最大で半径10キロだった=2011年12月14日、福島県南相馬市原町区大甕)
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原発の地震対策は、1995年の阪神・淡路大震災を受けて揺れ動いてきた。専門家らが「絶対に壊れない」と胸を張ってきた高速道路や新幹線の高架が崩れ、国は2006年、原発の「耐震設計審査指針」を改定する。
だが翌年に柏崎刈羽原発事故が発生。旧指針による耐震設計だったとはいえ、「阪神・淡路級でも壊れない」「神戸のような活断層の上に原発は建てない」としてきた国への信頼性は大きく揺らいだ。
そして、東日本大震災は、津波対策よりも業績を優先した企業姿勢も露見した。
昨年12月26日に出された政府の「事故調査・検証委員会」の中間報告からは、東京電力が想定を上回る大津波の危険性を認識しながら、数百億円規模の対策費に気後れしていた様子がうかがえる。
地震調査研究推進本部は、869年の貞観地震の最新研究成果を公表しようとしていたが、震災8日前、東電は所管する文部科学省に対し「震源はまだ特定できていないと読めるようにしてほしい」と働き掛けていたという。
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活断層が多く走る若狭湾の沿岸部一帯。複数の断層が連動して動いた二つの大震災と同様、予期せぬ巨大地震が起こる恐れも指摘されている。
昨年10月27日。神戸市の兵庫県災害対策センター。県防災計画課副課長の坂本哲也(48)は、市町の防災担当者を前に切り出した。
「原子力安全委員会の協議内容を説明します」。11月1日発表予定の新防災指針だった。原発事故の避難計画策定区域を半径8~10キロから30キロに拡大するとともに、半径50キロを目安に屋内退避や安定ヨウ素剤の服用を考慮する区域を新設する-との内容だ。
兵庫県内では豊岡、丹波、篠山の3市のそれぞれ一部が含まれることになる。
説明を終えた途端、質問が相次いだ。「安定ヨウ素剤の備蓄は市町の財源でやるのか」「唐突に備えろと言われても困る」…。坂本は正式決定ではないことを伝えた上で、「まだよく分からない部分も多い。まずは国の動向を見ていこう」とその場をまとめるしかなかった。
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「想定」の先にあるリスクが、繰り返し見過ごされてきた。尊い命と引き換えに。備えに絶対はない。私たち一人一人の覚悟も問われている。(敬称略)
(安藤文暁、上田勇紀、小川晶)
=おわり=
2012/1/25