神戸市東灘区のJR甲南山手駅南。森南交差点から西を望む。沿道にマンションやスーパー、コンビニなどがずらりと並ぶ。町並みに生活感が満ちあふれる。赤信号で車の流れが止まるたび、横断歩道をせわしく人が行き交う。
近くに住む加賀翠(みどり)さん(57)は18年前、6歳の娘桜子ちゃんを失った。
ごくありふれた日常の一場面に、ふとあの震災の記憶が重なる。「何年たっても、あの当時の気持ちに戻る。けど、とにかく前を向いて生きていかんとね」
目の前に広がる風景は確かに震災で変わってしまった。でもそこには、突然大切な人やすみかを奪われた人々が、悲しみを胸にしまい、精いっぱい生きてきた「時間」が溶け込んでいる。
人が行き交う交差点に立ち、胸いっぱい冬の空気を吸い込んだ。
(宮路博志)
2013/1/10