激震が襲ってから約2時間半後、兵庫県庁では、窓ガラスが割れ寒風吹き込む中、当時の貝原俊民知事ら7人が集まり、最初の災害対策本部会議を開いた。
停電は数時間解消されず、情報収集は進まない。「ラジオと出勤時の目撃情報が頼りだった」。23年前、広報課職員として会議に出席した高橋守雄さん(69)=現・ひょうごボランタリープラザ所長=は振り返る。その後に明らかになる死者数は6434人。正午まで把握できたのは200人だった。
インターネットや携帯電話が普及していない中、安否や支援などの情報提供も同様だった。避難所は被災者らに向けた張り紙であふれた。情報の空白期をどう埋めるか。課題が残された。
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阪神・淡路から23年。情報通信技術は目を見張る進歩を遂げた。総務省の調査によると、フェイスブックなど主要な会員制交流サイト(SNS)を使う人は7割を超え、被災者が情報をリアルタイムで発信し、受け取る時代になった。
国立研究開発法人「情報通信研究機構」は、ツイッターにおける災害関連のつぶやきを人工知能で整理・要約するシステムを開発した。被災地のどこで被害が大きいかなどを瞬時に把握できる。
大分県は2017年の九州北部豪雨でこのシステムを活用。モニターには鉄道の線路が流されるなどの投稿画像がアップされ、被害の素早い把握に役立ったという。
兵庫県は現在、災害時にツイッターをチェックしており、4月からは専従でSNS情報を分析する担当職員を置く。夏ごろまでには、職員が災害現場や避難所の状況をスマートフォンなどで報告するシステムを運用する予定。迅速な支援につなげる考えだ。
一方、こうした情報把握は問題もはらむ。東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授(35)=災害社会情報学=が東日本大震災発生後の日本語ツイッター投稿のうち約160万件を分析したところ、文章から被害や支援ニーズを把握できたのはわずか0・37%だった。
災害時にはデマやメディア批判などが飛び交う上、被災者を励まそうというつぶやきもあふれる。こうした情報の氾濫が通信インフラを圧迫し、大事な情報を埋もれさせるのだという。
佐藤准教授は「情報が被災地や被災者のニーズに合っているのかを選別、整理、分析し提供する人材が必要となる」と指摘する。
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懸念されるのは、高齢者などデジタル機器に不慣れな人に情報が行き渡るかだ。
NPO法人阪神淡路大震災よろず相談室(神戸市)の理事長、牧秀一さん(67)は阪神・淡路の避難所で、高齢者向けに地域の生活支援情報をまとめた新聞を配った。「どれだけ技術が進んでも、結局は情報を届ける担い手が求められる」
災害から命を守り、正しく行動するための情報を、素早く、網の目のように届けるにはどうすればよいのか。テクノロジーの進化だけでは解決できない課題が突き付けられている。
(小林伸哉)
=おわり=
2018/1/19