■デマの放置は差別肯定のシグナル/権力を退け、歴史を知る

 「ナチスは良いこともした」。時折、そんな言説が流布され、近年は交流サイト(SNS)の投稿でよく見られる。これに対し「ナチスの政策で肯定できるところは一つもない」と即座に断言するのは、ナチズムの研究を30年以上続ける甲南大文学部教授の田野大輔さん(54)=歴史社会学=だ。学生に集団の暴走の危険性を体感させる「ファシズムの体験学習」を開講し、全体主義の芽は誰の中にもあり得ると警鐘を鳴らしてきた。人々を扇動する差別的言動が後を絶たない今の社会をどう見ているのか、話をうかがった。(長嶺麻子)

-2010年に始まったファシズムの体験学習は劇薬の平和教育ともいえます。

 「新型コロナウイルス禍で3年ほど中断しましたが、時間と手法を簡素化させて再開しました。敬礼をナチス式でなく拳を突き出したり、グラウンドの行進をやめて食堂近くの階段で制服を着て記念撮影したり。体育館に(糾弾の対象となる)サクラ役を用意して、皆で責め立てるパフォーマンスは続けています」

 「座学とは異なる教育効果はあるようです。人通りの多い場所で見られることで気分が高揚するとか、意識の変化は実感できるみたいで。当初は倫理的な問題はないのかなどと危惧する意見もありました。この授業は危険性もあって生半可な気持ちでやるとかえって危ない。学生に悪影響が生じないよう、かなり配慮しています。細かく説明すると大体、納得してもらえますが」