■言葉を「正す」と「整える」/衝動の独り歩きをチェック

 【校正】原稿や原資料と突き合わせて文字や図版の誤りを正すこと-。辞書にはそんなふうに書かれているが、「校正には『正す』だけでなく『整える』作業もある」と校正者の大西寿男さん(62)=芦屋市=は言う。書き手の言葉を「力づける仕事」だとする独自の校正論は昨年、NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介され、出版界にとどまらず、話題を呼んだ。今は大量の書き言葉が飛び交う、ネットの時代。だからこそ、聞いてみたい。「校正のこころ」を。(田中真治)

 -校正の仕事を始めるきっかけは?

 「元は編集者志望で東京の小さな出版社に勤めたんですが、なかなかうまくいかなくて。神戸に戻って、三宮の書店で働いていた時に、雑誌『文芸』(河出書房新社)で校正のアルバイトを募集しているというので行ったんですね。そしたら当時の編集長が『編集者より校正者の方が向いている』と。えーっ、と思って抵抗したけど、ほかに当てもなく。昭和から平成に変わった日に上京して、フリーで活動を始めました」

 「本を読むのは好きでしたね。父は職人かたぎの大工で、文化的環境に憧れがありました。進学した長田高校では文芸部で小説を書く一方、友達と作った同人誌『コモンセンス』に管理教育を批判するような投稿を載せ、にらまれた。考古学者になりたくて大学に入ったものの、考古学はモノ資料の分析で、個人には迫れない。だんだん熱が冷めて、生きた人間を対象にする世界に行きたくなった」