■「いのち輝く」理念、捉え直す/「何をよりどころに」議論を

 大阪・関西万博は開幕からちょうど3カ月が経過し、期間の折り返しを迎えた。近年、五輪も含めた世界規模のイベントが開かれる際、盛んに叫ばれるのが後世へのレガシー(遺産)の継承だ。過去20年間のほぼ全ての万博を訪れた「万博研究者」の関西大総合情報学部、岡田朋之教授(59)によると、過去に日本で開かれた万博はその後につながるテーマ設定や開催の意義づけが行われ、社会変容をもたらしたという。では今回は、未来にどんなメッセージを残すことができるのだろうか。岡田さんに尋ねてみた。(横田良平)

 -すでに20回以上、今回の万博会場を訪れたと聞きました。印象はどうですか。

 「開幕前から、『いのち輝く未来社会のデザイン』のテーマ性やビジョンの曖昧さを懸念していました。基本計画の説明では、日本の『生きとし生けるもののみならず、路傍の石でさえもいのちが宿ると捉える』文化を踏まえ、いのちの対象を『人間だけではなく多様な生物や自然』まで広げるとしました。いのちは英訳で『lives』が当てられていますが、こういった思想は英語ではなかなか伝わりにくい。理念をより具体化するサブテーマなどでも、この考えが系統立てて反映されていない印象です。八つのシグネチャーパビリオンを全て回りましたが、テーマ事業のプロデューサー8人が一つずつ手がけるという手法もあり、共通する認識や未来に指し示すものが来場者に分かりやすく示されていないと感じています」

 「一方、海外パビリオンはすごく良いですね。スペインやポルトガルは海で結ばれた近世からの日本とのつながりを紹介するなど、各国が日本を意識した展示をしています。複数の国・地域が同じ建物に入るコモンズ館も充実し、世界の多様性を感じられます。ジャマイカのブースは撮影スポットとして人気になっているようです」

大阪市此花区、夢洲

 -チケット購入や予約システムなどの複雑さが指摘されてきました。

 「日本のデジタル技術の遅れが出ている印象です。交流サイト(SNS)で来場者の反応を見ると、『ドバイ万博(2021~22年)では、1日に10ほどのパビリオンを回れたのに、今回は全然回れない』といった感想が漏れています。ドバイは会場が広く、すいていたこともあるのですが、今回、予約できるパビリオンは当日を入れて最大四つ。予約がすべて外れれば並ばざるを得ず、寂しい思い出が残ってしまいます。インターネットを使った予約受け付けが始まると途端に回線が混み合い、なかなか予約画面を開くことができなくなってしまいますが、これは05年の愛知万博でも見られた現象。20年前の教訓が生かされていません」

 「開幕前から、高齢者がスマートフォンを使った予約ができないという声がありました。ならば紙チケットや当日券を導入するのではなく、公費を使って電子予約の方法を教えたり、広めたりしてデジタル格差を解消する方法もあったと思います。韓国は12年の麗水(ヨス)万博で自治体などが使い方を教え、デジタル社会の拡大につなげました」