■市民に近い貴重な低山/ならではの登山文化、伝えたい

 全国の登山愛好家が集まる全日本登山大会兵庫大会が10月25~27日、神戸市の六甲山地を主な会場として開かれる。例年、高く秀麗とされる山が会場となることが多いが、今回は標高千メートルにも満たない六甲山で開催される。「これほど立地に恵まれた山は全国にも例がなく、われわれ市民の宝。素晴らしさを大いにアピールしたい」とは、兵庫大会の実行委員長を務める兵庫県山岳連盟副理事長の吉野宏さん(81)。舞台を六甲山にした意図とともに、全国の登山家にどのような魅力を伝えたいのか、あらためて聞いてみた。(安福直剛)

 -そもそも「全日本登山大会」とはどのような大会でしょうか。

 「ルーツは、1946(昭和21)年に始まった国民体育大会(国体、現在の国民スポーツ大会)にさかのぼります。今ではなくなりましたが、国体では当初、観客がいない中、実際の山で縦走競技などが実施されていました。ただ、こうしたやり方に対して登山家の間で不満がくすぶっていたのです。登山は本来『競技』ではなく、刻々と変わる気候や自然環境に対応しながら山と向き合うもので、自然に囲まれた山について学び、山を楽しむべきだ、という意見です」

 「そこで、10年後の56年に第1回の登山大会が開かれることになりました。当初は『全日本登山体育大会』という名称で、国体への意識が見え隠れします。兵庫県で開催されるのは65年の但馬山地以来、60年ぶりです。当時も主会場を六甲山にする計画だったのですが、『なんでそんな低山なんだ』『そんな誰も知らない山で大丈夫なのか』といった批判が出て、氷ノ山などがある但馬に変更したそうです。といっても氷ノ山は標高1500メートルほどで、普段から3千メートル級の山に慣れ親しんでいる人たちには物足りなかったようですが」

 -それが今回は「低い山」と批判された六甲山での開催です。

 「私自身、登山大会には10回ほど参加したことがあります。最近は高齢者の参加者が多く、人数も減少傾向で、多いときは300人以上いましたが、今は3分の1程度。一方、登山をするのは高齢者だけかというと、そうではありません。時代は大きく変わりました。高くて険しい山に登ることを目的とするのではなく、幅広い世代が山と親しみ、山を楽しむという風潮に変化しつつあります。少子化が進む近年にあって、いろんな世代の人に山の魅力をPRするには、大会の開催地として六甲山はうってつけなのです」

 -確かに、六甲山は身近で誰でも登れるというイメージです。